「日本をもう一度世界有数の産業先進国にする、そんな大望があるから興奮できる、それを同じ志の仲間と実現したいのです」
SOKKIN代表取締役CEOの本間亮平(以下、本間)は、起業の理由をそう説明する。
大学卒業後にTOPPANホールディングスで5年間、オフラインのマーケティングに従事した後、2014年にサイバーエージェントに入社。今度はデジタルマーケティングに携わり、プレイヤーの最高位職であるエグゼクティブアカウントプランナーまでのぼりつめた。ところが本間は、充実した毎日を送りながらも、もどかしさを感じていた。
「質の高いマーケティングを提供するとなると、どうしても大手企業にリソースが集中してしまう。中小企業やベンチャーがいい商品やサービスを開発しても日の目を見ないのは、それが原因ではないかと思うようになりました」
日本の企業99.7%を占める中小企業を含め、すべての企業に質の高いマーケティングおよびマーケティングに関連するソリューションを提供したい―。その想いを胸に、本間は2021年、SOKKINを設立した。
企業とプロのマーケター・クリエイターを
「SOKKIN MATCH」がつなぐ
同社はデジタルマーケティングを軸に「広告代理」「メディア」「プロマーケター・クリエイター人財マッチング」「マーケター育成」の4事業を展開している。広告代理事業では、本間をはじめとする元サイバーエージェントのトッププレイヤーたちが、大手企業、中小企業に質の高いサービスを提供する。メディア事業では、比較サイトなどを通じ、顧客の販路を支援する。そして、同社が独自サービスとして特に力を入れているのが、人財マッチングとマ ーケター育成だ。前者はプラットフォーム「SOKKIN MATCH」を通じて、複業やフリーランスのプロのマーケター・クリエイターと企業とを適切にマッチングさせ、中小企業でも課題解決に適したスキルの高い人財にマーケティング業務を委託できるようにする。本間が事業の狙いを説明する。
「広告代理事業でどれほど質の高いサービスを提供しても、私たちのリソースには限りがあります。日本には企業が約380万社もあるからです。より多くの企業が質の高いマーケティングを行えるようになるためには事業課題に最適といえる優秀なマーケターの存在が不可欠です」
サービスの特徴は3つある。ひとつ目はマーケティングに関する課題とそれを解決する人財要件のコンサルティングだ。本間と同じくサイバーエージェントの幹部プレイヤーだった、人財支援統括本部 本部統括の坂口綾太(以下、坂口)が説明する。
「一般的な人財会社は、どうしてもマ ーケティングの実務経験が深くありません。例えば顧客から『最近はやっているから、TikTokをやりたいです』と言われたら、 TikTokを得意とする人を探します。しかしその顧客にとって、それが最適な手段とは限りません。例えば、もし商材が顕在層の刈り取りを優先するべきであれば、まずやるべきはリスティング広告であり、それを得意とする人財が必要です。私たちはそうした顧客の課題をコンサルティングによって導き出し、本当に必要な人財を提案できるのです」
ふたつ目は、業務委託者の実力を正確に把握できることだ。
「一般的な人財会社では、例えば人財との面談で『Google広告ができます』と言われたら『できる』にチェックして終わりです。ところがGoogle広告は、リスティング広告やディスプレイ広告など細かく分類されます。リスティングでも作業ベースで分けたら、入稿と運用、分析と施策実行がある。当社は実務経験がある人にしかわからない質問や独自のスキル診断システムを細かく活用することで、その人財の得意分野や能力値を正確かつ詳細に把握できるのです」(坂口)
3つ目はサポート体制だ。パートナーとマーケティング業務を進めるなかで顧客に困り事が生じた際、マーケティングの実務経験のない人財会社では十分な対応は難しいが、実務経験豊富なSOKKINであれば案件をスタックさせない適切なアドバイスによるサポートが可能なのだという。
こうした3つの特徴が顧客から評価を得て、「SOKKIN MATCH」の継続率は96%に達しているという。
根本にあるマーケター不足
「SOKKIN ACADEMY」が一助に
一方でマーケター育成事業の根幹をなすのが「SOKKIN ACADEMY」だ。事業会社や広告代理店がマーケターを内部で育成する実務に生かせるeラーニングで、即戦力レベルまでデジタルマーケティングの能力を引き上げることができるという。「日本のマーケターで質の高い戦略と戦術実行ができるのは500人ほどと言われています。約380万社に対してまったく足りていないので、優秀なマーケターを増やしたいという想いで始めました」(本間)
本間は優秀なマーケティング人財を「事業計画を達成するため、少なくとも市場・競合・自社の観点から分析を行い、物事を立体的にとらえて、中長期的な戦略に基づき、逆算して足元のアクションに落とし込み、実行できる人財」と定義する。
「SOKKIN ACADEMY」がそうした人財を育成できるのは「講義の質が他社と違うから」だと坂口は強調する。
「世の中にあるマーケティングの教育サービスは、マーケティング実務を知らない人たちが運営を行っていることが多い。私たちは実務経験が豊富なので、総論的なマ ーケティングフレームから各論までを実践に落とし込んだ実務実行が可能な学びを提供できるのです」
マーケティングの概念を学べるサービスは多いが、それを実行できるかどうかは別問題だというのだ。「SOKKIN ACADEMY」ではトップマーケターの実務をたたき込むほか、学習管理システム(LMS)が実装されており、効率的に学ぶことができる。
「管理職側が、チームのメンバーの受講状況や強みを正確に把握できるのも特徴です。能力値をパラメーター化できるので、例えばこの人はクリエイティブが得意とか、この人は広告運用が得意といったことがわかるので、適材適所の組織配置にも活用することが可能になります」(坂口)
また手ごろな受講料も魅力だ。
マーケター育成に注力する同社は、来年には「SOKKIN INTERN」と「SOKKIN新卒」を立ち上げる計画だ。大学生がSOKKINの育成サービスを受けながら、企業でのインターンシップでアウトプットをする。そうして早い段階で土台構築を終えたマーケターを、新卒として企業に紹介するのだ。優秀なマーケティング人財を増やす狙いがあるというが、業界の慣習を変えたいという想いもある。
「マーケティング職は総合職として採用する慣習が日本の企業にはありますが、それはマーケティングを専門職としたい学生に寄り添えない可能性があります。学生に最初からマーケティングのスキルがあるのならば、専門職として就職したい人もいるはず。その後押しをしたいのです」(坂口)
優秀なマーケティング人財を増やすことは、日本の未来に備えるためでもあると本間は言う。日進月歩のテクノロジーは広告業界にも浸透する。人が担うべき未来の領域は何かと、多くの議論がなされている。
「広告の運用など自動化が可能な部分は、将来的に統計学を活用したAIに置き換えられると思っています。一方で人がやらなければならないのが事業計画を達成するための各社のマーケティング戦略だと考えています。ゆえに、デジタルマーケティングの分野には、ブレーンとなる人財がいなくてはならない。マーケティングに関連することであれば、どのような企業からも頼られる存在(ALWAYS SOKKIN)になり、日本を再び輝かせたいと思っています」(本間)
SOKKIN
https://sokkin.me
ほんま・りょうへい◎SOKKIN 代表取締役CEO。2009 年、 TOPPANホールディングスに入 社。14年、サイバーエージェン トに入社し、エグゼクティブプ ランナーとして、金融・電書・ キャリア・ECなど多数の大手企 業のフロントコンサルタントに従 事。アマゾンジャパンを経て21年、 SOKKINを設立し現職。
さかぐち・りょうた◎SOKKIN 人財支援統括本部 本部統括。 インターンを経て2019年、サ イバーエージェントに入社。シ ニアアカウントプランナーとして 人財・不動産業界のマーケテ ィングおよび営業を担当。その 他EC・金融・キャリア・フィッ トネス・非ゲームアプリなど多 業種にわたる大手企業のフロン トコンサルタントに従事。24年、 SOKKINに入社し現職。