ものづくり、サービスのエキスパートの言葉とともに、その魅力を紐解く。
「山崎12年」が世界最高の酒へ
2024年9月26日、ロンドン・ウエストミンスターで開催された「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(以下ISC)」は緊張と興奮に包まれていた。ウイスキーやジン、ラム、ブランデーなど数千に及ぶ蒸溜酒が約70カ国からエントリーされる世界でも最大規模で権威のある酒類コンペティションにて、今、全部門での最高賞である「Supreme Champion Spirit」が発表されようとしていたからだ。その世界に冠たる酒が「YAMAZAKI 12years」とコールされた時、会場はどよめいた。昨年の受賞酒もジャパニーズウイスキー、それも同じ「山崎」の25年だったからだ。「山崎」ブランドとしては2年連続での快挙となったが、奇しくも今年は、日本でウイスキーが初めて蒸溜されてから100年、「山崎」が誕生してから40年という記念すべき年。日本に山崎あり、という勝どきがあらためて世界へ響いた瞬間でもあった。
飽くなき品質への追及
この「山崎」は、ブレンデッドウイスキーが主流であった1980年代に、スコッチのシングルモルトとは異なる日本ならではの繊細なテイストに仕上げたいという佐治敬三(サントリー第2代社長)の想いから生まれた、日本を代表するシングルモルトウイスキー。今回のISC連続受賞は日本のものづくりが世界的にも評価されたと解釈できるが、ではそのユニークな魅力はどこから生まれてくるのだろうか?「『山崎』の特長はまずその蒸溜所のある山崎の風土に由来しています」と語るのは、同社で5代目のチーフブレンダーを務める福與伸二だ。
「ウイスキーにとって水は非常に重要ですが、京都の南西、天王山の麓である山崎は、かの千利休も拠を構えていた名水の源であり、近隣の水瀬神宮の水は大阪唯一の名水百選にも選ばれています。さらに桂川、宇治川、木津川という三川が合流するポイントである山崎の湿潤な気候も、蒸溜所建設の地として適しています。また原料はもちろん、清澄な麦汁をつくり、直火蒸溜の導入などの製造工程に徹底的にこだわることで骨格があり長期熟成に耐える原酒をつくり込み、さまざまな発酵槽や蒸溜釜や樽材を使うことで、すっきりした味わいから複雑で厚みのある味わいまで多彩な原酒をつくり分けています」
それら原酒を卓越した技術でブレンドし、熟成させる—まさに、日本ならではの繊細な美意識と匠の技が「山崎」を「山崎」たらしめているのだ。
ジャパニーズウイスキーへの期待
振り返ればハイボールの人気に火がついた2008年頃、機を同じくして世界がジャパニーズウイスキーの繊細な味わいに注目したことから市場は活況となった。21年には、日本洋酒酒造組合がジャパニーズウイスキーの定義として「国内で採取された水のみを使用する。国内の蒸溜所で糖化・発酵・蒸留する」などと制定。24年4月には完全施行されたことで、ジャパニーズウイスキーは今後より一層、世界の耳目を集めていくだろう。「なかなか飲めないお酒でしたが、最近ようやく手に入るようになってきました」と語るのは「オークラ東京」(東京・虎ノ門)料飲部副部長の中野公士朗。
「『山崎』は卓越した味わいとクオリティで万人から愛されています。例えばメインバーである『オーキッドバー』では数千名のお客さまからボトルキープをいただいているのですが、その大多数の方が『山崎』をチョイス。大切な方とのご接待や、ご自分ひとりの時間を彩る、とっておきの1杯として楽しまれています。さらに世界中の方々からも熱烈な支持を得ており、『山崎』を飲むことを訪日の大きな目的とされている方も多いですね」
またその楽しみ方について、食中酒としての可能性を示唆するのは「鮨よしたけ」(東京・銀座)の大将、吉武正博だ。
「『山崎』のフルーティな味わいと甘やかな香りは和食とも相性がよいですね。香味が弾けるハイボールは鮨の繊細な味を引き立ててくれるし、なめらかなトゥワイスアップやストレートはカラスミやアワビの酒蒸しなど珍味とも好相性。飲み方によっても表情を変えるのもワインや日本酒と異なる、ウイスキーならではの魅力ですし、「山崎」の余韻の長さは鮨とも通じるところがあると思います」
国産至高の美酒、世界の頂へ
「醒めよ人!舶来盲信の時代は去れり 酔はずや人 吾に国産至高の美酒 サントリーウイスキーはあり!」とは1929年の新聞広告にあった同社創業者・鳥井信治郎の言葉だ。日本にウイスキーが誕生してから100年。その60年後に生まれたジャパニーズシングルモルト「山崎」は、昔も今もトップを走り続けるジャパニーズウイスキーの先駆者である。しかし、その見据える先は世界の最高峰へと大きく転じた。日本から世界へ、そしてその先に拡がるものは?今は「山崎」の勝利を寿ぎつつ、その未来に期待したい。
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