アート

2024.11.13 14:15

なぜ巨匠マネは生涯タブーを破り続けたのか。最後の問題作から経営者が学ぶべき視点

初期の「草上の昼食」や「オランピア」などの頃から一貫したマネのある意味パンキッシュな姿勢は、彼が「いずれはこれが絵画の世界では当たり前になるだろう」という市場のコンテクストを読み切っての挑戦だと考えられます。現代の経営者で、マネのように社会をフラットに見て長期的な視野をもち、新たな価値観を提示していく挑戦を行っている方が、今どのくらいいるでしょうか。

(3)についても、発表当時「フォリー=ベルジェールのバー」は賛否両論を呼び、評価を得るまで時間がかかりました。しかし、過去の実績からすでにマネを評価するパトロンや画廊が存在していました。企業に例えると、確立されたコーポレートブランドが挑戦的な商品を投入するようなものです。

またマネは問題作を生み出し続けましたが、生涯を通じてフランスの美術界最大の権威、パリ・サロンでの評価確立にこだわりました。このあたりが、サロンに喧嘩を売ってストリート的に生きたクールベや印象派の画家たちとは一線を画します。自分というブランドがどう作られるべきかを、戦略的に意識していたのです。

そうしたマネの思考は、企業がどのように自社のポジショニングを行い、市場に自社の商材やブランドを浸透させていくのか、方法を検討するうえで有効な材料になるでしょう。

最後の(4)については、「フォリー=ベルジェールのバー」がマネ最後の大作となったことが象徴的です。同作の発表当時は作品の良さが理解されませんでしたが、その後マネは印象派のドガやモネ、ルノワールなどに筆致や構図、そして何より社会をとらえる視点で大きな影響を与えました。さらに後世では、ポスト印象派のゴッホなどにもそのインパクトが引き継がれていきます。

マネが先人たちを徹底的に研究し、模倣することから新しい境地を開き、晩年さらに挑戦的な作品で後世にバトンを渡していく姿は、経営者が見習うべきものでしょう。
コートールド美術館。かつてサマセット公爵所有の宮殿だったサマセット・ハウスの一角にあり、中世から20世紀にかけての作品を、3万4000点超収蔵している(著者撮影)

コートールド美術館。かつてサマセット公爵所有の宮殿だったサマセット・ハウスの一角にあり、中世から20世紀にかけての作品を、3万4000点超収蔵している(著者撮影)

優秀な経営者ほどより「長い時間軸」で考え始めている

個人的に、まずはご自分が良いと思う作品をゆったりした気持ちで鑑賞いただくこと。そして、作品の時代背景やアーティストの思考プロセスを理解・整理しつつ、「経営に当てはめてみたら」という流れでアートを楽しんでいただければと思います。

ぜひ皆さんもアートを通してご自身のフレームワークを作り、周りの方との会話を通じて楽しみながら思索を深めていってください。海外の経営層や長期的視野をもつ経営層はそれをかなり実践している印象です。

近頃、こういった話を経営者としていると、共感していただく機会が増えています。特にファミリー経営の企業や創業社長がまだ現役でいらっしゃる企業、歴史が長いものづくり企業の経営層の方々は、こうした考えへの理解がとても深い。経営に対する自分ごと化の度合いが高く、次世代に向けた責任感の強さ故に、歴史的コンテクストや本質的な意味でのイノベーションへの理解も進んでいらっしゃるのでしょう。

9月に、ニューヨークで開催された世界最大規模の気候変動イベント「Climate Week NYC」で弊社ENND PARTNERSが主催するイベントがあり、共同創業者のTim Brownとマルコメ青木秀太副社長とのパネルディスカッションを行いました。トピックは「日本の長期的視野での経営」でしたが、オーディエンスの熱量が高く、強い関心が集まっていることを実感しました。

今回のマネをはじめ、アートと「長い時間軸での経営」との関係性について、これから経営層との対話や実践を通じて探求していきたいと思います。

文=岩渕匡敦

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