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2024.11.26 16:00

島根に再び「引き寄せる力」を——ソフトウェアメーカー・オネストが地産外商で目指す地域活性

島根県松江市に本社を構え、製造業向けソフトウェア製品「調達業務改革 Web-EDI e商買®」を主力に製造業界のDXを大きく推進するオネスト。創業以来29期連続の黒字経営で経常利益率は30%、契約事業所は国内外の約300事業所に及ぶ。躍進を続ける背景には、創業者・石𥔎修二が抱く、現状に満足せず邁進する強い姿勢と地元・島根への並々ならぬ想いがあった。


山陰自動車道の東出雲インターチェンジを降りて約5分。目の前に緑豊かでのどかな風景が広がる。出雲に古くから伝わる“国引き神話”にちなみ、「意宇(おう)の里」と呼ばれる地域だ。この地に存在感を持って佇む、木造3階建ての青いビルがある。オネストの本社である。

「過疎の代名詞・島根を何とかしたい」の一念で起業

石𥔎は、島根県出雲市で生まれ育った生粋の島根県民だ。小学生から自然科学や数学が好きで、高校は地元の工業高校の電気科に進学。卒業後は、「日本の中心・東京に出てこそ、初めて地域のことがわかる」という父の言葉に背中を押されて上京し、富士通に就職した。システムエンジニアとして社会人スタートを切ったが、早稲田大学へ進学するために退職。卒業し、再びIT企業に従事していたが、26歳のときに父が病に倒れ、島根へUターンした。

「その当時、島根では毎年3,000人近くが県外へ流出し、過疎化が深刻でした。高速道路や高速鉄道などの交通インフラは未整備。経済的魅力にも欠け、全国に打って出る地元資本の会社はごくわずかで、零細企業が中心でした。ただ私は、IT産業なら通信機能、アイデア、技術さえあれば事業展開できる。島根でも十分勝負できるはずだと確信しました。“ITで地元・島根に活気を取り戻す!”。起業のきっかけは、その一念です」

その後、石𥔎は島根の産業振興、地域活性への強い想いを胸に秘めながら、IT関連企業で技術や企画力を磨いた。そして満を持した1995年、40歳のときに「オネスト」を創業。社名は人々が自由にネットワークでつながるのを願い、HUMAN OPEN NETWORK SYSTEM TECHNOLOGY の頭文字(HONEST)から取った。

掲げたスローガンは、「あくなき創造への挑戦」。ソフトウェア製品の開発とマーケットの開拓、この2つの“創造”に邁進することを意味している。

“逆転の発想”から誕生した、Web-EDI調達業務システム

「自社でソフトウェア製品を開発し、販売する。独自性があれば、どこの誰とでも戦える」。

創業時から、これが常に石𥔎の脳裏にあった。島根で製品を開発し、東京をはじめ日本全国、ひいては世界中で販売する。そうして得た「県外貨」を、会社や社員が島根で消費あるいは納税する——この「地産外商」経営で、島根に経済効果をもたらそうと考えていたのだ。

「新製品のアイデアを考えていたとき、以前下請けの製造業者から受けた、ある相談を思い出したんです。それは『複数の受注先からくる注文をひと目でわかるようにできないか』。私は、受注する側に向けたシステムではなく、発注する側=大手・中堅の製造企業向けの調達システムを構築すれば全国展開できて一気に普及するはずだ、とひらめきました。“逆転の発想”です」

当時、世の中にはすでに他社の調達システムが存在していたが、それは電話回線を借り受けたVAN-EDIを使うものだった。ホストコンピューターや下請けが使うパソコン、通信費の高さがネックとなり普及しないでいたという。オネストでは、インターネットの普及、パソコンがどんどん安価になっていた時代を読んで、WEB-EDIのシステムとして開発。

そして誕生したのが製造業様向けの調達業務改革ソリューション「調達業務改革Web-EDI e商買®」(以下、「e商買」)だ。「e商買」では、見積依頼や発注時に図面を正確に伝送し、素早く正確な発注を可能としている。“図面”は製品の設計や製造工程の指示書として重要な役割を果たしている。また入荷処理には、納品書や現品票にQRコードを貼付して検品作業の効率化やヒューマンエラーの削減に繋げている。これが、マーケットに楔を打ち込んだ。

その後も、「e商買」は改良に改良が重ねられ、2022年に進化版「e商買 DX」、2024年にその更なる進化版「e商買 SP」をリリース。コスト削減、業務の標準化・効率化、セキュリティ強化――製造業の調達業務におけるニーズをすばやく捉え、他社に先駆けてソフトへ実装してきた。その結果、冒頭リードで述べたような実績を生んでいる。

「製品開発の上では、顧客企業を訪問して課題やニーズを探ります。そして、『どういうソフトがあったらお客様に一番喜ばれるか』を365日考え続けています。また当社は20年以上、国内最大級の業界向け展示会に出展。今年は約1,000人が当社のブースに来てくださいました。営業部隊が東京の最前線の情報をいち早く拾い、技術部隊が製品に反映するというサイクルも大事にしています」

社員を労い、処遇向上にも注力

オネストは、来年で創業30年を迎える。8名だった社員は今や60名に。石𥔎は社員の処遇向上にも力を注ぎ、直近3年では毎年5%の報酬増額を実施している。また4年半前に本社を新築した際は、「疲れた体を休め、寛げるように」と、男女別の和室の休憩室もつくった。

「畳の和室にしたのは、システム障害の復旧作業時や災害時の仮眠室としても使えるように。また、女性はハイヒールで疲れた足を伸ばし、十分に体を休めることができるように。ふすまや障子には伝統工芸の組子を施しました。窓の外に目をやれば、清々しい竹林も見えます。デジタル人間はつい論理的思考になりがちなので、アナログな部分も忘れてほしくないと思って。ただ、こうした和室は、IBMやマイクロソフトの日本本社では当たり前に設置されているものですが」
オネスト 代表取締役社長 石𥔎修二

オネスト 代表取締役社長 石𥔎修二

社員想いであると同時に、常に時代の先端を見つめ、世界のスタンダードを意識する石𥔎らしい言葉である。今後の展望に対する回答にもそれはよく表れていた。

「これからも、時代の変化とニーズをしっかりと捉え、新しい製品を開発していきます。AIとIoTを活用した製品の研究開発に取り組み、現在はリリースに向け準備を進めている段階です。さらに販売拠点の強化に伴い、近い将来はタイやベトナムといったアジア進出も視野に入れています。つい先日も社員がひとり、ベトナムに渡ったところです」

「創業塾」を立ち上げ、次世代の起業家を育成

石𥔎の視線は遠い世界や未来に向けられるが、もちろん足もとの島根を忘れたわけではない。忘れるどころか、その熱の入れようはどんどん増しているのかもしれない。

2021年、石𥔎は中国地域ニュービジネス協議会島根支部の事業として島根大学と島根県立大学の学生らを対象にした「創業塾」を立ち上げた。企業廃業数が起業数を大幅に上回り、かつ公務員比率が全国1位という島根の実態に危機感を覚えたからだった。

「講師に招くのは、ニュービジネス大賞(中国地域ニュービジネス協議会の顕彰制度)を受賞した経営者です。学生たちに、より身近な経営者の経験を聞いてもらうことで創業への意欲を高めてほしい。同時に、自分の故郷、地域を良くしていきたいと思う志を持ってほしい。パーパスを明確にして、努力を積み重ねれば、自然とうまくいくものです。あまり難しく考えずに、まっすぐな気持ちで挑戦してもらいたいですね。ただ、忘れてはならないのは、企業経営には社会的責任が伴うということ。無責任に起業を促すことはしていません」

こうした活動以外にも、島根支部長を務める中国地域ニュービジネス協議会で行うニュービジネスの推進・育成支援、B.LEAGUE島根スサノオマジックをはじめとしたスポーツ関連のスポンサー支援、教育・文化振興支援などを長年にわたって継続的に行ってきた。

さまざまな観点で精力的に活動するその様は、パズルの完成に向け、次々とピースがはめられていくようでもある。しかし、大きなピースがひとつ、まだ残っている。

「私の夢は、松江に動物園や遊園地などのアミューズメントパークをつくること。島根は自然が豊かですが、若い人が遊べる場所が少ないんです。たとえ会社が増え、働く場所ができても、結婚した若者が家族や子どもと休日に遊びに行ける場所がないのは健全ではありません。だから、プライベートが充実するような、気軽に出かけられるような場所をつくりたい」

さらに、こう続けた。

「オネスト本社のある『意宇の里』は、『出雲国風土記』でヤツカミズオミツヌノミコトが本土と離れていた現在の島根半島を引き寄せる“国引き”の大仕事を行ったことに由来しています。私は、“国引き”ではなく“人引き”をしたいのです。県外、世界中から」

島根で自然科学や数学に夢中になりながら育った少年は、故郷の「引き寄せる」力を信じ、着実に、そして真摯に地域を進化させているのだ。


いしざき・しゅうじ◎1954年、島根県出雲市生まれ。早稲田大学を卒業。富士通、日立ソリューションズ西日本等でソフトウェア開発に従事した後、1995年に株式会社オネストを設立。Made In Japan Software & Service コンソーシアム会員。一般社団法人 島根県情報産業協会理事、一般社団法人中国地域ニュービジネス協議会副会長(島根支部長)などを務める。趣味は囲碁、ゴルフ。

オネスト
本社/〒699-0111 島根県松江市東出雲町意宇南6丁目3番地1
URL/https://www.onest.co.jp/
従業員/60名


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