独房の囚人たちが強い抗議の意を込めて、スプーンなどで牢の鉄棒を叩き続ける音のすさまじさは、「こんなに易々と死刑を執行していいのか?」と問う彼らの叫びだ。
最下層の白人と黒人差別
もう一つ、強烈な印象を残すのが、事件の”目撃者”として検察の重要証人となっているマイヤーズである。ウォルターの再審の是非を握っていると言ってもよい男だ。別件で服役中の彼に会いに来たブライアンに向かって、マイヤーズは開口一番、「何か奢れ」と食堂内の自販機を指す。しかし奢らせておいて、ブライアンの質問にはまともに答えようとしない。
四十がらみの痩せた白人で、首から顔にかけては深い火傷で皮膚が筋肉ごと引き攣れており、口元も大きく歪んだ異相のマイヤーズは、かなり歪で癖の強い人物として描かれている。
二回目の面会でやっとマイヤーズは、ブライアンに真実を語る。検察に司法取引を持ちかけられ、自分の罪を軽くしてもらうのと引き換えにウォルターが殺人犯だと証言したのだ。
だがその話と同じくらい強烈なのは、彼が語るあまりに不幸な過去である。恵まれぬ子供時代を過ごし孤独に生きてきたマイヤーズが、検察から弱みにつけこまれて屈したのは仕方ないことだったかもしれない、とさえ思えてしまう。
その中で、権力をもった白人たちが、マイヤーズのような最下層の白人を利用して、ウォルターのような黒人を犯罪者に仕立て上げていくという、何とも胸糞の悪くなるような構造が浮かび上がってくる。
再審請求の日に証言台に立ったマイヤーズと、質問するブライアンのやりとりは緊迫感に満ちている。しかし、袴田さんの件でもそうだったように、一旦死刑を宣告された人の再審までの道のりがいかに厳しいかを、見る者は改めて思い知らされる。
ついに州の最高裁に上告することになる終盤、既にウォルターは「死刑囚」として6年目を迎えている。ここで彼がブライアンに語る台詞は、袴田さんの無罪確定の後では、一層リアルかつ痛切な重みをもって響くだろう。
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