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2024.11.12 15:30

「ギアチェンジ」と「常識外」で過去最高益、横河電機奈良寿社長の戦略

「課題意識が強かったのでしょう。夜中にトイレに起きたとき、ふと『ギアチェンジ』という言葉が降ってきた。この話をすると社員の記憶にも残りやすいので、あえて伝えています。ちなみに海外拠点のタウンミーティングでこの話をしたら、『英語ではシフティングギアだ』と指摘されました」

このエピソードからもわかるように、横河電機は海外売上比率7割、外国籍従業員6割を超えるグローバル企業だ。組織のダイバーシティは進んでいて、サウジアラビアの拠点には約60人の女性のみで構成されたソフトウェア関連部署まである。宗教上の理由から、男性は部署への入室禁止。中東のオフィスでは、富裕層なのか、フェラーリで通勤する社員もいるという。

「常識外」と多様性を楽しむ

バックグラウンドが違う人たちをまとめるのは容易ではないが、奈良はこれまで何度も異文化の従業員たちをまとめる経験をしてきた。国内営業畑を歩んできた奈良は39歳のときにシンガポールで外国人上司に鍛えられ、その2年後にはタイ現地法人の社長になった経験をもつ。

「あるとき、社員が約束の時間に遅れてきました。『気にしないでいい』と声をかけようとしたら、遅れた本人が『気にしないで』と言ってきた。日本の常識では考えられない。多様性を楽しまないとマネジメントはできません」

帰国後は国内のグループ会社3社の統合を手がけた。同じ日本とはいえ、それぞれの組織文化は大きく異なる。仕事の進め方で摩擦が起きたが「否定せずにコミュニケーションする」ことを心がけながら現場をまとめた。

グループ全体を預かる立場になってもマネジメントの方針は変わらない。19年に社長になった半年後、IRで会った海外のある長期投資家から、こう言われた。

「経営の方向性や戦略、SDGsの観点はグッドだ。しかし、優れた戦略があっても社員が熱量をもって行動しなければ実現しない。君が従業員1万7000人のバトルシップをどう操縦していくのか。俺は見ているぞ」

奈良は、この言葉を片時も忘れたことはないという。違いを理解して、対話を重ね、ひとつのゴールを目指す。このスタイルを貫きながら、今日も巨大な船を導いていく。


横河電機◎1915年創立。YOKOGAWAグループ会社とともに、計測、制御、情報の技術を軸に最先端の製品やソリューションを提供。60カ国に拠点を構え、従業員数は連結で1万7000人を超える。

奈良 寿◎秋田県生まれ。1985年に立教大学法学部を卒業した後、横河北辰電機(現・横河電機)に入社。2011年に取締役常務執行役員、17年に取締役専務執行役員、19年4月に代表取締役社長。24年6月から現職。

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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