「自社を含めて『常に完璧』ということはありえない。開発スケジュールに遅れが生じたり、ミスが起きたりすることもある。だが、顧客やサプライヤーとの間に信頼関係があれば、その信頼は障害を乗り越える架け橋になってくれる」
地に足をつけながら「飛び回る」
ラフィーバはエンジニアとしてアドバンテストの米国法人に入社し、内部昇格した「生え抜き」のCEOだ。同社にとって最大の転機となった11年の米ベリジー買収では統合チームの一員を務め、米国政府から独占禁止法に関する承認を得るときにも一役買った。そして14年、44歳のときに人生を変える転機が訪れた。ある日、00年代に同社の社長を務めた丸山利雄から、米オレゴン州ポートランドに住むラフィーバ宛てに電話があった。丸山は「今からそっちに行くよ」と言う。丸山は若かりしころのラフィーバのメンター役を務めた人だった。久しぶりに再会したふたりはポートランドを流れるウィラメット川沿いを散歩し、公園のベンチに座った。「米国法人のCEOにならないか」。突然の、思いがけない打診だった。
「彼は私に信頼を寄せてくれていました。不安は一切なく、感謝と興奮のなか『会社のために力を尽くしたい』と思いました」半導体のバリューチェーンで最も信頼されるテストプロバイダーになるために、昼夜を問わず働いた。Group CEOになった今もハードワークぶりは変わらない。頭のなかは日々、自社の事業やAI、半導体メーカーの動向などでいっぱいだ。そんなラフィーバを「地に足がついた存在」にしてくれるのは妻の存在だという。
「一日が終わり、『今日は何をしていたの?』と聞くと、幼稚園の先生をしている妻からは『子どもたちに読み書きを教えていたわ』といった答えが返ってきます。彼女との会話を通じて、私はいつも『本当に大切なこと』に気づかされるのです」
地に足をつけながら、ラフィーバは今日も世界を飛び回る。世界各地にいる従業員やパートナー、顧客や株主たちとの信頼をつなぐ「架け橋」となるために。
アドバンテスト◎半導体テストのリーディング・カンパニー。1954年設立。半導体を試験するためのSoCテスタやメモリテスタ、インターフェース部品など、幅広い製品ポートフォリオをもつ。
ダグラス・ラフィーバ◎1995年に米テキサス大学オースティン校大学院を修了し、米モトローラを経て98年にアドバンテスト米国法人に入社。2014年にアドバンテスト執行役員、20年取締役、23年代表取締役副社長兼Group COOを経て24年4月から現職。