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2024.11.09 09:30

「サステナブルな事業と社会」アステラス製薬 岡村直樹CEO

セッションでは、社員は匿名でオンライン上に質問を投げる。質問に賛同した参加者が「いいね!」ボタンを押すと、人気がある質問が上位に上がってくる。これらの質問に岡村が直接答えていく。もちろん自由参加だが、日本語バージョンには毎回900人程度、英語のセッションには300人ほどが参加し、岡村がこれまでに答えた質問の数はゆうに1200を超えるという。ちなみに、岡村には「答えにくい質問」はあるのだろうか。

「やはり人事系のことですね。『いろいろ考えているんだけどさ』としか言えない。それ以外はもう、嫌な質問も散々されてきたのでまったく気にしません」

嫌な質問とは、例えばどんなものか。

「『23年度のこの体たらくの責任を取るつもりはないんですか』とか、かなり辛辣ですよ。嫌な質問をされてつい表情が変わったり言葉が強くなったりすると、参加者アンケートのフリーコメント欄に『岡村さんは今日も嫌な顔をしていました』と書かれたりして、すごく鍛えられます」

「特許切れ」をどう乗り越えるか

話をアステラスの事業に戻そう。25年度はアステラスにとって5カ年計画の最終年度に当たる。27年にはアステラス製薬の稼ぎ頭のひとつである前立腺がんの治療剤「イクスタンジ」がアメリカで独占期間満了を迎えるなか、この5年間の成果目標の達成度合いは同社の持続的な成長を測る重要な指標になる。

「売上高や営業収益は目標に到達できそうです。Focus Areaから創出される製品の売り上げを30年度に5000億円以上にするという点については、プロジェクトの成否でガラッと成績が変わります。今は遺伝子治療、がん免疫、再生と視力の維持・回復、標的タンパク質分解誘導の4つのプライマリー・フォーカスがあります。それぞれのフラッグシップ(主力品)が25年度末までに“POC(臨床での有効性確認)の見極め”まで進むことになっているので、彼らに長い目で見た成長を託しています。最後にコア営業利益率ですが、目標30%台に対して25年度の着地点は20%台になるので、5カ年計画の到達度合いは70%くらいです」

人の命を預かる仕事だ。決して楽ではないが、やりがいは大きい。

「CEO宛てに海外からカードが届いて、『自分の家族がイクスタンジを使っている。本当に感謝している』なんて書いてあると、しびれますよね。製薬会社で働くことの醍醐味だと思います」

とはいえ仕事と私生活は厳格に切り離すようにしている。オフィスのパソコンをシャットダウンしたら、翌朝までは絶対に触らない。メールは目を通すものの反応はしない。夜は妻が料理を作り、自分は皿洗いを担当する。本を読み、音楽を聴き、休日は美術館などに足を運ぶ。

「基本的に出不精なんです。ぼーっとしているだけで十分。私って、楽しそうでしょう?」

「用心深く楽観的」で「仕事に厳しい」CEOの、意外な素顔が垣間見えた。


岡村直樹◎東京大学卒業後、山之内製薬(現アステラス製薬)に入社。2012年にAstellas Pharma Europe Ltd.に出向し経営戦略担当CStOを務める。アステラス製薬帰任後は要職を歴任。18年に経営戦略担当CStO。副社長を経て23年4月から現職。

文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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