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2024.11.09 09:30

「サステナブルな事業と社会」アステラス製薬 岡村直樹CEO

さらに、社会全体のサステナビリティ向上のために昨今、企業が力を入れ始めていることがある。競合他社との協業だ。アステラスも例外ではない。

21年10月、同社は日本国内向けの下痢型過敏性腸症候群治療剤「イリボー錠5μg」を包装するPTPシートにバイオマスプラスティックの採用を開始した。バイオマスプラスティックを医薬品包材用PTP に採用したのは世界初だという。

石油由来のプラスティックからバイオマスプラスティックに切り替える。簡単に聞こえるかもしれないが、実は「技術的にすごく難しい」。何しろ、包装するのは医薬品だ。衝撃で簡単に壊れては困る。気密性の高さも不可欠だ。一方で、誰でも簡単に錠剤を取り出せなくてはならないし、包装された錠剤の視認性などクリアすべき条件もたくさんある。まさに「医薬品包装のイノベーション」なのだ。

反響は大きかった。内閣府が主催した23年の「日本オープンイノベーション大賞」の環境大臣賞をはじめ、国内外で数多くの賞を受賞した。だが、これは始まりに過ぎない。新たな試みに成功したアステラスは複数の製薬企業に声をかけ、医薬品包装の環境負荷低減を推進するコンソーシアムを立ち上げて技術を共有するなど、同業他社との連携も強化している。

「我々だけで何かをやっても、生み出せるインパクトはそれほど大きくない。ご一緒させていただいているさまざまなステークホルダーやパートナー、時には同業の皆さんと、同じ方向を見てやっていくことが大事だと思います」

「賢いリスクテイク」ができるか

新薬の開発とは最先端の科学を患者の価値に変えることである。継続的にイノベーションを起こしていくことは製薬業界の生命線だ。とはいえ、考え抜いて挑戦しても大半は失敗するのが創薬の世界。大切なのは失敗から何を学び、次のステップにどう生かすか。岡村はこれを「賢いリスクテイク」と表現する。

「イノベーションを起こし続けるにはリスクを取らなければいけない。階層的で硬直的な組織では、それはできません」

そこで、岡村が副社長時代から掲げているのが「組織健全性目標」だ。具体的には3つ。果敢にチャレンジし成果を追求すること、人材とリーダーシップの活躍、そして社員の効果的な協働だ。

「主体性があり、賢いリスクが取れて、失敗から学び次に生かすという一連の流れがスムーズに行われる組織になるには、社員一人ひとりがこれらの姿勢をもっていないといけない。リーダーは役割であり、リーダーシップは心のありようです」

アステラスには今、世界各地に1万4,000人以上の従業員がいる。うち、日本の従業員は約3分の1だ。組織は地域軸ではなく機能軸で動いているため、上司や部下が異なる国や地域にいることは日常茶飯事だ。国が違えば時差が生じるし、対面でのやり取りもかなわない。世界各国との情報の行き来をどれだけ少なくできるかが、各自のオペレーションの品質や速度を上げるうえで重要になる。

「ところがまだまだ、組織のヒエラルキーの下で働いた経験が強く残っているので、つい上司に『どうしたらいいですか』と聞いてしまう。リーダーも、聞かれると気持ちがいいからつい答えを出してしまう。『どうしましょう』と聞かれたら、リーダーは『君の責任で決めなさい』と押し戻さなければいけないし、現場の社員は『これを決めるのが自分の責任なのだ』と思えるようであってほしい」

そう願い続けて4年目を迎えた今、岡村は変革の手応えを感じつつあるという。例えばそれは、社員の自発的なリスキリングの動きに見ることができる。
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文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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