過去数年にわたるAIブームに沸く一方で、「AIは儲からない」、「AIはバブル」、さらには「今さらマイクロソフトやグーグルのような米国ジャイアントに太刀打ちできない」との嘆きやあきらめの意見も絶えない。
こうした中、孫曰く、ネタとは握り寿司の魚の身を指す。これが、すなわち日本を含めた「非シリコンバレー圏」の活路になると明言する。そこで、エンデバー・ジャパンが10月に開いたイベントに登壇した孫泰蔵のプレゼンテーションから、その発言の真意と、彼が描くスタートアップ・エコシステムの未来像に迫る。
AIの「シャリ」と「ネタ」
握り寿司はシャリとネタで構成されている。シャリはご飯(米)の部分であり、孫いわく「寿司の基礎のようなもの」に相当する。そして、ネタとは主に魚の身。マグロや鯛、サーモン、コハダ、イカやタイのようにネタは多岐にわたり、トロのようにマグロ一つとってもネタは様々ある。ネタの捌き方次第でも触感を含めた味わいが変化する。このように、多様なネタを多様な捌き方で寿司にするのが職人だ。包丁さばきのような技能はもちろんのこと、旬なネタは何であり、どの地域で獲れる魚であるかといった知識も豊富に持っている。
孫に言わせると、寿司とAI産業の構造を重ね合わせると、共通する部分がある。
今、マイクロソフト傘下のオープンAI やグーグル、グーグルと提携したAnthropix(アンソロピック)といった企業が、GPTやGemini、LAMAなど基盤モデルと呼ばれるAIに莫大な資金を投じて開発している。
この基盤モデルこそが寿司のシャリだと孫は例える。世の中のニュースに出てくるAIは、この基盤モデルを指すことが多い。孫の見解によれば、「この領域はすでに大手テクノロジー企業によって支配されており、もはやスタートアップ企業が参入する場所ではない」。
ただし、AIの基盤モデルだけで何でもできるわけではない。地域の言語に特化したAIモデルや、産業・用途(アプリケーション)に適したモデルの開発も盛んだ。これが寿司のネタに相当する領域であり、AIスタートアップこそ最も注力すべき領域だ。