今回は三菱商事エネルギーの新規事業の創出から新法人設立、そして事業拡大にいたるまでの軌跡を、FLEET PITLOCK 代表取締役 秋元晃嗣とJenerate Partners 執行役員ディレクター 東郷重賢の対談から紐解くことで、大企業の新規事業創出を成功に導くカギを見出したい。
ガソリン、灯油、軽油から重油、アスファルト、潤滑油までの供給を担い、石油業界の国内流通を総合的に手掛ける三菱商事エネルギー。インフラとしても欠かすことができない石油の流通を担う同社だが、「脱・石油依存」が叫ばれる今、新たなビジネスモデルの構築へと動き出している。
その歩みの一つでもあるFLEET PITLOCKは、自動車リース大手4社(オリックス自動車、住友三井オートサービス、日本カーソリューションズ、三菱オートリース)との業務提携契約に基づき、自動車リース業界を横断する車両メンテナンス管理専門の共通プラットフォームを開発。現在、2025年後期のリリースに向けた準備を進めている。
このプロジェクトを立ち上げから支援しているのがJenerate Partnersだ。
信頼できるパートナーとともにプロジェクトが始動
──石油事業を幅広く展開する三菱商事エネルギーの現在地についてお聞かせください。秋元晃嗣(以下、秋元):天災や有事が起こった際、インフラを電力のみに頼ることはリスクが高く、将来的に石油が完全になくなることはないと考えています。しかしながら、石油事業が緩やかなダウントレンドとなっているのは紛れもない事実です。実際ガソリンスタンドの店舗数は全盛期の約6万店から約2万7000店に減少しています。弊社では現在、危機感を持って新たなビジネス創出に取り組んでいるところです。
──そんななか、22年1月に三菱商事エネルギーの100%出資会社としてFLEET PITLOCKが設立されました。新規事業のアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
秋元:15年に、グループ会社のエム・シー・エスサービス(現・カーフロンティア)に出向していた時、私自身初となる新規事業の立ち上げを経験したことに起因しています。
そのサービスの1つに、ユーザーがECサイトで購入したタイヤを、弊社が提携する全国49,000店(2015年当時)のガソリンスタンドで受け取り、交換作業を行うというECサイト「TIREHOOD(タイヤフッド)」があります。
その後、私は三菱商事エネルギーの経営企画部に戻り、次なる新規事業の創出に取り組むことになりましたが、FLEET PITLOCK は、まさにTIREHOODのタイヤの取り付けを請け負っていただける自動車整備会社を開拓していた時に生まれたアイデアです。
法人リース車両のメンテナンスを行う整備工場の多くで「情報管理ができていない」という課題がありました。その要因のひとつに、リース会社の発注書や請求書など提出方法や受取方法がバラバラであること。また整備士だけでなく、専門性が必要なバックオフィスの人材も不足しているという現状がありました。
そこで統一の基準を設けて一本化できれば、技術者もバックオフィスの方も情報管理が楽になることで作業が効率化でき、人材も確保しやすくなるのではと思ったのがきっかけです。
──Jenerate Partnersとの取引のきっかけや、期待していたことについてお聞かせください。
秋元:Jenerate Partnersさんとの出会いは現在から5年ほど前、タイヤのEC事業が伸び悩んでいた時期に力を貸してくださったのがきっかけです。
それまで大手コンサルタント会社様に依頼させていただいたこともありますが、提案してくださる内容が営業所を廃止して費用を削減して収益率を高めるなど、目的が「利益を上げる」ことに特化したものが多く、現場の感覚としては「すぐには実現できない」と感じることがありました。
また当時、EC事業以外にも弊社の柱となる事業創出を考えなければいけないという課題もありましたので、これからは我々と同じ目線で新規事業立ち上げに伴走してくださる方々とご一緒したいと考え探していたところ、コンサルの仲介業者やさまざまな人を介してJenerate Partnersさんと出会うことができました。
まさに期待していた通りで、我々が投げるさまざまなアイデアをすぐに調査してくださり、解像度の高いファクトに基づいて精査してくれる。とても心強い存在ですね。
──Jenerate Partnersとして構想を聞いた時の印象についてお聞かせください。
東郷重賢(以下、東郷):秋元さんから事業アイデアをいただいたうえで、整備会社はどのような日常の過ごし方をしており、どんな課題を抱えているのかなど、我々の方で多角的に調査を行いました。すると、整備会社とリース会社の情報連携や請求情報のやり取りがいかに複雑なものかが見えてきました。
こうした検証を重ねた結果、顕在化した課題にマッチした事業計画案だったので新規事業として勝機があるのではないかと考えました。
信頼できるデータで経営層を説得
──Jenerate Partnersはパートナーとしてどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。東郷:三菱商事エネルギー様の方で推進されているさまざまな新規事業テーマについてご支援させていただくことが我々のミッションです。ご支援形態は事業テーマの検討フェーズなどによって異なりますが、FLEET PITLOCKについては立ち上げに際しての企画構想の具体化から事業計画策定、事業立ち上げまでさまざまなサポートをさせて頂いています。各フェーズによって必要な事項やスキルセットなども変わるため、それぞれのフェーズに応じてチームを組成しながら継続的にサポートさせていただいています。
──本プロジェクトを進めていくなかで、秋元さんが感じたJenerate Partnersの強みについてお聞かせください。
秋元:まずはマーケティング調査に対する情報ソースの開示です。事細かに情報ソースが開示されるケースは少ないのですが、Jenerate Partnersさんはどのような方に何を聞いたのかなど、すべて公開していただけるので、ヒアリング結果などにおいても発言の背景を汲み取りながら咀嚼することができます。またフォーカスすべき課題が特定できた段階で蓋然性を以て経営層にも納得してもらえる解像度の高い事業計画を作成できたのは、大きなメリットとなりました。
その背景として、自動車整備業界における有力プレイヤーである1,000社に対してヒアリングを試みるなど、情報収集に尽力してくださいました。
我々が現場の声を聞こうとすると、ニーズを解決したいあまり、どうしても「こういうサービスがあったらいいですよね」と、仮定して話してしまうことがある。その熱量を感じた現場の方々は、それが例え本質的な解決にならないと分かっていても「そうだね」と言ってくださる。それでは本当の意味での課題解決にはなりません。Jenerate Partnersさんが現場のリアルな声を数多く聞いてくださったおかげで、信頼できる根拠をもとにプロジェクトを前進させることができました。
東郷:我々は事業計画の実現可能性を極力高めるために、事業を構成する重要KPIの見極めと検証に徹底的にこだわるという点において、どこにも負けないと自負しています。
今回のプロジェクトでは重要な整備工場1,000社へアタックを行い、150社の有効な回答を獲得し、得られた回答の分析結果を基に事業戦略や財務モデルなどを組み立てています。机上の空論に終始する事業計画ではなく、現場感が掴めるリアリティのある事業計画を重視しており、そうした点が経営陣の方の納得度を高めたポイントになっているのではないかと考えています。
秋元:また、どんな事案でも当事者意識を持って課題に取り組んでくださる姿勢も大きな信頼に値します。
東郷さんと出会った当時から決断力の速さと正確性には感心していました。先ほどお話ししたとおり、これまで100を超えるアイデアを東郷さんにぶつけ、そのほとんどがダメだと言われてきました。理由は他社サービスと差別化ができない、または仮にリリースできたとしてもタイミングが最適ではないなどさまざまですが、提示したアイデアが実現可能なものかの調査が正確で速い。
同時に、過去のアイデアをすべてストックしてくださっていて、可能性が出てきた時期に改めて提案をしてくれる。そういったサポートもとても助かっています。
顧客に迎合せず、我々が求めている本質的な価値、メリットにならなければ否定するスタンスこそ、Jenerate Partnersさんの良さであり強みだと思っています。
東郷:過去検討した事業であっても外部環境の変化で再度検討の俎上に上がる可能性もあります。また秋元さんは現場でのご経験が豊富で、目の付けどころに驚かされることもあります。常にアンテナを張っていらっしゃるのでアイデアも多く、「FLEET PITLOCK」以外にも、実現可能な案件についてはこれからもご提案していきたいと思っています。
また我々の特徴としては事業をやりたいという起業家精神を持ったメンバーが多く在籍しています。そういった意味でも常にクライアント様と同じ目線で課題に挑む、新しい道を切り開こうとするメンバーが集まっているという点は自負しているところではあります。
──FLEET PITLOCKの現在地についてお聞かせください。
秋元:22年10月から一部サービスが稼働し始め、23年時点現在、約470社の自動車整備会社に登録いただき、トランザクションとしての売り上げも順調に伸びています。また25年後期には当初目指していた機能の実装完了を予定しており、5年後である28年には5,000社の自動車整備会社への普及・展開を目指す予定です。
自動車整備業界の課題を解決する会社へ
──新規事業の創出において頓挫してしまう企業や組織や、実現を阻む大きな壁があるケースも多いと聞います。壁を乗り越え、実装していくために大切なことについてお聞かせください。秋元:壁が大きく見えている段階では、問題を明確にとらえられていないのかも知れません。私自身、いくつもの新規事業に携わってきましたが、実は大きな壁は存在せず、1つひとつの小さな課題を着実にクリアにしていくことで、おのずと壁を乗り越えられると実感しています。
弊社の場合、各フェーズでストーリーやファクトが足りていないと感じた時、東郷さんが迅速かつ的確にサポートしてくださったので、決して困難だったとは感じていません。
ただ我々は三菱商事の子会社なので、新しい事業をはじめようとしてもグループ内ですでにスタートしているケースもある。だからこそ自分たちの強みである領域を改めて見極めることで、我々にしかできないサービスを見つけることができると思っています。
新規事業はあくまで手段。新規事業の命題は顧客の方々が抱えている課題に対しソリューションを提供することです。そこをぶらさずに突き進む、それが最も重要なことだと考えています。
──最後にFLEET PITLOCKの今後の展望についてお聞かせください。
秋元:今後はFLEET PITLOCKというプロダクトをより世間に浸透させ、インフラも含めて、人手不足が加速化する自動車整備業界の状況を打開できるように成長させていきたい。そして将来的には、タイヤメーカーや自動車保険会社といった他の業種も巻き込んで新たなサービスを創出していければと思っています。
東郷:FLEET PITLCOKは本格的なサービスのご提供を25年後期に予定しています。このスタートをきちんと実現させ、その後の成長においてもできうる限りのサポートをさせていただきたいと思っています。
また当社としては、引き続き三菱商事エネルギー様の新規事業テーマについて幅広くサポートさせていただいており、FLEET PITLCOKのみならず二の矢・三の矢を着実に立ち上げられるよう伴走させて頂ければと考えています。
あきもと・こうじ◎FLEET PITLOCK 代表取締役。秋田大学卒業後、2008年に三菱商事石油(現・三菱商事エネルギー)入社。ガソリンスタンド営業、リテール業務などを経て、15年にグループ会社のエム・シー・エスサービス(現・カーフロンティア)に出向。AnotherRoot・TIREHOOD事業の立ち上げプロジェクトに携わる。その後、三菱商事エネルギーに戻り、経営企画部課長としてFLEET PITLOCK事業を主導。22年1月から現職に。
とうごう・しげたか◎Jenerate Partners 執行役員ディレクター。早稲田大学卒業後、国内独立系コンサルティング会社に入社。大手IT・通信系企業の新規事業の立ち上げ・海外展開に向けた事業開発支援などに携わる。16年にJenerate Partnersに移り、大企業の新規事業を支援するプロフェッショナルサービス事業などを手掛けている。