編集長の忘れられない「この一言」
シニアライターとして創刊に関わり、2019年より編集長を務める藤吉雅春が10年分の取材ノートから忘れられない「この一言」を抜粋。リーダーたちの言葉にどんな未来を見たのか。
4回目の今回引用するのは、アフリカへの支援を行う北野武氏(2023年4月号)の「一言」だ。
〈それでは経済構造は変わらないよね。仕組みとルールをつくって、ルールがわかる人間を育てなきゃ〉
(Forbes JAPAN2023年4月号 「『世界の北野』からすべての経営者に贈る アフリカ、足立区、そして仲間の巻き込み方」より 北野武
コンビニで働く外国人店員を見て、なぜ客のぶっきらぼうな日本語をあんなに理解できるのだろうと不思議に思ったことはないだろうか。
コンビニで働く若者の多くは日本語能力試験(国際交流基金と国際教育支援協会が主催)で最上位レベルであるN1〜N2の合格者だという。つまり、上位合格者を中心に採用しているのだ。
日本語能力試験にはN1からN5までの5段階あり、もっとも易しいN5でも日常生活で必要な会話の能力や漢字の理解が必要だ。最難関のN1の場合は、新聞の社説のように幅広いテーマや複雑かつ抽象度の高い論評を読解し、会話を聞いて論理構成と要点を理解しなければならない。
N2とN3の合格率で、世界の平均合格率を大きく上回る日本語学校がある。アフリカのベナン共和国にある「たけし日本語学校」だ。
ベナン共和国の「たけし日本語学校」、生徒の驚くべき日本語力
ベナンは、3世紀も続いた奴隷貿易の拠点である「奴隷海岸」で知られる。対日輸出が3億円程度なので、日本との関係は薄い。それでも日本語検定のN2は世界平均より合格率が5%以上高く、N3は18.8%も高い。つまり生徒のほとんどがN3以上の合格者ということになる。
「たけし日本語学校」は、その名の通り、北野武の名前から取られている。2024年で創立21年目を迎えており、アフリカ初のこの日本語学校で、これまで累積2000人以上が学び、計113人が東京大学大学院を筆頭に、日本の大学院に留学。ビジネス人材も輩出している。教室に入るとビートたけしの写真や「人生甘くない」という書が貼られているので、バラエティ番組の延長のように思われるかもしれないが、非常に高い成果を出しているのだ。
「たけし日本語学校」はTBS番組『ここがヘンだよ日本人』でビートたけしと出会い、弟子入りしたベナン人のゾマホンが設立した。植民地時代から今も根強く残る「搾取される経済システム」から脱却するため、教育による国力のアップを目指している。北野武の支援のもと、ゾマホンと、NPO法人IFEの代表で日本語教師である山道昌幸が運営を行っている。ゾマホンは講演活動などで得た収入のほぼすべてを学校運営に投じ、また山道代表も昼間は会社員として働き、その給与を日本語学校の資金に当てている。