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2024.11.25 16:00

【ジョルジオ アルマーニ×松山ケンイチ】強き信念が生む時代を超えた美 —THE RESOLUTE SPECIAL INTERVIEW—

今年90歳となったジョルジオ・アルマーニは、自身のブランドをスタートしてから来年でいよいよ50周年を迎える。いまもって衰えを知らず、トップクリエイターとして現場に立ち、最先端のファッションを生み出し続けている。その驚異的な創造の世界を探るべく、他分野で活躍する人物へインタビューを実施。両者に通じるキーワードからトップランナーの秘訣を浮き彫りにするスペシャルプロジェクト。

第三回は数々の映画やドラマで主演を務め、自身でもライフスタイルブランドを運営する俳優の松山ケンイチに、演技やファッション、そして職人との出会いなどについて訊いた。


“タイムレス エレガンス”という普遍のテーマを追求し続けているジョルジオ アルマーニの服は、着る人一人ひとりの個性を引き立てることが重要視されている。特徴的なカラーや流行は着る人の個性を覆い隠してしまいがちだが、アルマーニがファッションにもたらした中間色“グレージュ”や“タイムレス”というコンセプトは、誰が袖を通してもジョルジオ アルマーニの世界観をつくり上げるのだ。

それは優れた俳優の演技にも似ている。どんな役を演じても、役柄と同時に俳優自身の人柄をも感じさせ、観る者の胸へリアルに迫ってくる。そんな演技で観衆を魅了する名優のひとりが松山ケンイチだ。その迫真の演技には、ジョルジオ アルマーニの服づくりへの信念にも通じる流儀が込められているのではないか――。彼自身の言葉から浮かびあがる、その共通点に迫る。

デザイナーと俳優に通じる流儀

「現在は演じる役柄と本来の自分、そのどちらかに偏りすぎないように意識しながら演技しています。なぜなら、自分を別のキャラクターに無理矢理押し込むことは、自分に対する暴力のような面もあると感じたからです。20代では役柄に入り込んでいましたが、精神的にも身体的にも不調をきたし、30代に入る頃にはこのままでは続けられないと感じるようになりました。そして別の人間を演じるときも、自分をもっと大切にすることが必要だなと思うようになりました。いまではキャラクターに応じて、役柄と自分のバランスをなんとなく考えるようにしています。例えば、現代劇なら役によっては自分の色々な素の部分を使えるし、バランス配分も比較的簡単ですが、時代劇ならそうはいかない。自分本来の所作や喋り方などが、まったく使えないからです。そういった場合は、これまでさまざまな現場で時代考証を担当する方に指導いただいた知識や経験を応用しながらこなすようにしています」

松山の演技とジョルジオ アルマーニの服。その本質は一見異なるようだが、どちらも役柄や着用者に“憑依”し、一体化するような様相を見せる。そして計算し尽くされた絶妙なバランスが、双方の魅力の源泉となっているのである。役柄と自分自身、個性とブランドの美学、それぞれの要素が見事なバランスで両立することで、松山の演技は観る者の心を揺さ振り、記憶に残るキャラクターを生み出す。一方でアルマーニの服は、着用者にとってのリアルな美しさと、アルマーニにしか表現できないエレガンスによって、忘れ難いスタイルを創り出すのだ。

さらに “役づくり”について、松山は次のようにも語る。

「役をいただいたらもちろんリサーチなどはしますが、自分だけでできることは限られていると思っています。けっして手を抜くわけではないですが、映画やドラマをつくるうえで、演技は最終的な部分でしかありません。その前には衣装やメイク、美術、照明、録音などの方々がそれぞれを整え、監督のディレクションが入り、表現されます。その最後の部分を切り取っているだけで、すべての役づくりを自分が行なっているわけではありません。映画やドラマはさまざまな要素が積み重なってできているものであり、そういった意味では現場の皆さんにはいつも頼ってしまっている部分もあります。

今回、ジョルジオ アルマーニの表参道店で撮影させていただきましたが、映画やドラマの現場と同じように、とても演出されていると感じました。そのなかに“主役”である、色々な製品がある。入った瞬間、別世界のような空気を感じました。多くのスタッフがつくり上げる映画やドラマの現場も、入った瞬間、いつも別世界の空気を感じます。そしてそこに身を置くと自分の内面から溢れ出てくるものがあり、自分が役へと変わっていくのを感じます」


チームワークと衣装の役割

映画やドラマは多くのスタッフのチームワークによって生み出される。それはジョルジオ アルマーニのようなファッションブランドにもいえることだ。その運営には、デザインに始まり、型紙の製作や素材の生産、縫製、そして店舗のディスプレイなど、世界中のスタッフが携わっている。それを熟知し、チームを構成する人々が各々を尊重することで、チームワークは最大限に発揮され、人の心に響く作品=服や演技が生まれるのである。では、その一部である衣装を松山はどう捉えているのか。

「キャラクターをつくり上げるうえで、衣装の存在はとても重要だと思っています。なぜなら、人を見る際、まず目に入ってくるのは服だったりするからです。人の姿は大半が服で占められており、面積としては、顔はほんの一部。もちろん表情も大事ですが、服によって人柄まである程度判断されてしまうことだってありますから。キャラクターを示す型や記号のような役割を果たすこともあると思います。

だから、現場でも衣装は重視しているのですが、プライベートで着る服も、周囲に良くない印象を与えないように気を遣っています。ただ、僕は着ていて楽な服が好きで、かっちりした服は避けてきたんです。今日着させていただいたジョルジオ アルマーニの服は、ゆったりとしていてとても快適ですが、だらしなく見えないのがすごいですね。最近は、いい大人が楽でゆったりした服ばかり着るのは、どうなんだろうと思うこともあったのですが。既成概念が崩れ、大人でもこうしたスタイルを楽しめるんだと、今回身をもって知りました」

ジョルジオ アルマーニの服は、たんなるオーバーサイズの服ではない。かつて医師を志し、医学を学んでいたアルマーニは、人体構造を熟知している。さらにドレープを自在に操ることで、スポーツウェアのような快適さとテーラードウェアの凛々しさを併せもつ、唯一無二の服を生み出すに至ったのだ。そんなアルマーニの服の本質的な一面を的確に評した松山は、自身の感性をどのように磨いているのだろうか。

職人が生み出す圧倒的な美

「俳優はドラマや映画、舞台、あるいは小説、漫画などを通して感性を磨き、自身の“引き出し”を増やしていくのがセオリーであり、僕も駆け出しの頃は研究のために家で映像ばかり観ていました。ですが、それらに描かれている以上のものは、当然吸収できません。しかし現実には、それ以上のことをしている人が実はたくさんいることを知ったのです。そういった人たちと出会い、その生き方や考え方を吸収することを今はとても大切にしています」

最近では、伝統工芸の職人に会うために自ら各地に足を運んでいるという。

「手仕事の極みのような彼らは、ある意味常軌を逸したところがある。ひとつの作品をつくるのに3年間もかけ、完成したらあっさり売ってしまったりする人です。とにかく自分がつくりたいものをつくるという、強烈な執念のようなものを感じます。そんな彼らがつくり出すモノには圧倒的な美を感じるし、彼らと話していると各々のストーリーが見えてきて、心を揺さぶられます。それは彼らが働いている場所まで行き、まとっている空気を感じながら言葉を交わしているからこそであり、映像だけではけっして得られないことだと思います」

そんな松山は現在、自身でもブランドを運営し、活用しきれていない資源のアップサイクルに取り組んでいる。それは田舎と都会の2拠点生活を始めた頃、現地では使い切れずに廃棄される皮がたくさんあることを知ったことがきっかけだという。そこにもいち早くサステナブルという思想をラグジュアリーの分野に採り入れた、ジョルジオ アルマーニに通じる感性が感じられる。

現役であり続けるということ

「実際に田舎で暮らすまで、知らなかったことがたくさんあります。獣皮が捨てられていることもまったく知りませんでした。資源を無駄にせず活用することで、環境だけでなく地域の人々の職も守れるのではないかと思ったのが、アップサイクルを目的としたブランドを立ち上げたもうひとつの理由です。

これも田舎で実感したことですが、国内の伝統的な文化や技術、工芸は今まさに失われつつある。それらが受け継いできた豊かな精神性や生き方は、本当に素晴らしいと思っています。僕が伝統工芸の職人さんに会うと感動するのは、そういった形にならない部分でもあるのです。言葉ではなかなか伝え切れないのですが、それらは失ってはいけない、次の世代に残さなければいけないと感じます」

ジョルジオ アルマーニのコレクションは、研ぎ澄まされた職人技に支えられているといっても過言ではない。その卓越したデザインと職人たちが連綿と受け継いできた匠の技が一体となることで、世界中の人々を感動させるのだ。彼らの技は、一度失われたら取り返しがつかないものばかりである。松山の言うように、そんな職人たちをリスペクトしているからこそ、ジョルジオ アルマーニは約半世紀もの長きに渡り、最高峰のファッションで世界を魅了し続けてきたのである。

「ジョルジオ・アルマーニさんが90歳で現役というのは、本当にすごいと思います。伝統工芸の職人さんもそうですが、強い信念がなければそこまで続けられないと思います。そして続けているだけでなく、まったく古びていないことに驚かされます。それはアルマーニさんが、今も現場に立ち続けているからではないかと思うのです。会社が大きくなるにつれて立場が変わり、椅子にふんぞり返って指示を出しているだけでは、現場を知ることができず、きっと生み出すデザインも古びてしまうと思うんです。

俳優は生まれたてから死ぬ間際までを演じる可能性のある職業ですが、言うなればいつ始めても、いつ辞めてもいい。僕もいつまで続けられるかわかりませんが、続ける限りは古びたくない。それは最前線に立ち続けたいという意味ではなく、若く新しい世代の感性を理解できるようにしていたいということ。そのためには、アルマーニさんのように現場に立ち続け、もっと多くの人と会うなどして、自分の感性を豊かにしていきたいと思っています」


【撮影場所】
ジョルジオ アルマーニ 表参道店

2024年9月6日(金)にオープンした新店舗。メンズ、ウィメンズの2フロアからなる国内最大級の広さを誇る。また日本初上陸となる「アルマーニ / カフェ」が一階に併設されている。

【店舗情報】

ジョルジオ アルマーニ 表参道店
東京都港区北青山3-6-1 オーク表参道1F-2F
11:00〜20:00
不定休

ジョルジオ アルマーニ ジャパン
☎︎03-6274-7070

https://www.armani.com/


ライトグレーセットアップ:ジャケット¥506,000、ニット¥308,000、パンツ¥242,000、 靴¥190,300〈すべてジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン☎︎03-6274-7070〉
ブラウンチェック3ピース:ジャケット¥506,000、パンツ¥286,000、ベスト¥242,000、シャツ¥242,000、ベルト、靴ともに参考商品 〈すべてジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン☎︎03-6274-7070〉

松山ケンイチ
まつやまけんいち/俳優。1985年青森県生まれ。2002年に俳優としてデビュー以降、映画やドラマ、CMなどで幅広く活躍。2012年にはNHK大河ドラマ『平清盛』に主演。2023年にはNHK大河ドラマ『どうする家康』、TBS金曜ドラマ『100万回言えばよかった』などに出演し、主演映画『ロストケア』も公開された。2024年はNHK土曜ドラマ『お別れホスピタル』、NHK連続テレビ小説『虎に翼』に出演。また12月20日には主演映画『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンvs悪魔軍団』の全国公開が控え、2025年1月放送予定のTBS金曜ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』への出演も決定している。

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