その“商用車の雄”いすゞ自動車が、2024年4月に中期経営計画「ISUZU Transformation-Growth to 2030(IX)」を発表し、商用車メーカーから「商用モビリティソリューションカンパニー」への変革を謳っている。
「2024年問題や環境問題をはじめとするモビリティに関連した社会においての課題に対し、2030年に私たちがどうあるべきかという視点で、社会にどのように貢献すべきか、どのような責任を果たすべきかを策定した経営計画です。
いわば、いすゞ自身がより強く挑戦の意志を持った“目的集団”へ進化することをこの計画で宣言しました」。
「ISUZU Transformation-Growth to 2030(IX)」の意義を同社広報部・木浦一樹(写真)はそう語る。
つまり、これまでのような商用車メーカーとしての立場から飛躍し、商用車を取り巻くさまざまな課題を総合的に解決し、物流や人流の課題解決に取り組むことを目指す。
その柱になるのは、3つのソリューション。
ひとつめは、2027年度に「レベル4」での社会実装を目指すという自動運転。ふたつめは、さまざまな物流課題にアクセスするコネクテッドソリューション。そして、3つめが環境課題にアプローチするカーボンニュートラルソリューションだ。
この3つの領域を柱として、「商用モビリティソリューションカンパニー」へ目指していくというわけだ。
商用車のCN化に伴うバッテリーの課題を克服
マルチパスウェイでの技術開発を進めてきたカーボンニュートラル(CN)のジャンルでは、FCV(燃料電池自動車)の開発のほか、すでに小型BEV(バッテリー式電気自動車)トラックを開発、販売。確実にCN車両の拡大に貢献してきた。さらに、「バッテリー交換ステーションを整備することによって、充電時間のロスを短縮し、災害時には地域の電源スポットになるようなシステムも進めていく」(CN事業企画部・三島公人)という。
バッテリー交換ステーションは、BEV車両に搭載されているバッテリーをあらかじめ複数備え、運行中の車両は充電ではなくバッテリー交換だけですぐに出発することができるようにするものだ。
急速充電であってもどうしてもタイムロスになっていた充電時間。これを削減し、さらに災害時の拠点としても活用できる。地域貢献とドライバーの負担軽減にもつながるソリューションといっていい。
さらに「急速充電だと電力系統にもバッテリーにもどうしても負荷がかかる。交換ステーションであれば負荷が低いだけでなく、電力市場や需給の安定にも活用できて、環境に優しく且つ経済的な効果も期待できる」(三島)。
BEV車両の拡大に伴う電力系統やバッテリーの課題を克服するアイデアであり、日本のみならずタイでは25年度から実証実験を開始するなど東南アジアなどでの早期導入も期待されているという。
またいすゞではBEVだけでなく、FCVや天然ガス・バイオ燃料などの環境負荷の低い燃料を使用する車両など幅広いラインナップで、CNに寄与する車両・ソリューションを全方位で開発・提案している。
ドライバー不足へのソリューションを
「2024年問題でも取りあげられているドライバー不足の解消にもつながると思っています」と、同社商用モビリティ推進部の原本航が話すのは、コネクテッドソリューションについて。トラックドライバーの不足が深刻化する中で、急にドライバーを増やすことは、人口減少もあいまって現実的とは言い難い。そうした中で、「荷主への負荷の最小限にしつつ、全体の輸送効率が上げられると考えています」(原本)という。
たとえば、トラックの荷待ち・荷役時間や運行状況などを運送会社を跨いで一元管理。そうすることで、帰ってくるトラックに帰り荷を手配する効率も高まるし、ムダな待ち時間を減らすことができる。
「また、これまでは荷主企業の要望に合わせて運送事業者の皆様がなんとか対応していました。しかし、これからは荷主企業の生産計画・在庫計画だけでなく、当社のコネクテッドソリューションを活用し、運送事業者の運行計画や輸送キャパシティなどを組み込んだ最適輸送計画に基づいた運行をすることで、全体の輸送効率が上げられるのではないかと考えています」(原本)。
物流網全体をコントロールすることによって、輸送効率を向上させて、ドライバー不足に対応するのだ。
なお、ドライバー不足はもちろん、業務負荷の軽減および効率化を図るサービスも提供しているのもコネクテッドソリューションのひとつ。
「いすゞは運行管理サービス『MIMAMORI』でドライバー様向けのスマートフォンアプリ(MIMAMORI Dアプリ)を提供しています。このアプリでは、ドライバー様ご自身で月の残運転時間等がご確認いただけ、日々の運行前の日常点検に関しても、通常2人体制で確認するような点検項目を1人で確認できたり、効率的に日常点検ができる機能がございます。
加えて、現在のお車の場所や渋滞情報や大型が通行可能な道路を加味し、現在地点から目的地/経由地までルート検索ができる機能もございます」(コネクテッド企画推進部・佐々木秀)。
自動運転レベル4でできること
「自動運転」について、いすゞ自動車は、2027年度にレベル4(ODD=Operational Design Domain限定:遠隔監視付き)、つまり特定の条件下で運転手の介在を必要としない自動運転の事業化を目標に掲げている。足がかりにするのは、高速道路でのトラック輸送や路線バス。「外部との連携等により技術開発は進んできていますが、実際の道路で自動運転の実証をすると、予期しない課題も出てき、社会実装に向け、そういった課題解決に挑戦しているところです」
こう話すのは、同社商用モビリティ推進部の小嶋隼人だ。
「自動運転レベル4の実現は、ドライバー不足といった課題解消はもちろん、たとえば路線バスならば乗務員が車内の安全監視などに集中できるといったメリットもあると考えています」。
路線バスはもとより、タクシーであってもドライバー不足や運行事業者の経営難によって、“公共交通消滅の危機”が現実のものとなっている。そうした中で、自動運転路線バスは自治体、バス事業者から早期導入への期待は大きい。
いっぽうで、高齢者をはじめとする利用者などに、まだまだ自動運転を受容する環境が整っていない側面もある。
「技術的なことをいえば、今後自動運転のほうが安全性は高くなってくる。しかし、それを理解してご納得いただかなければ、実際に導入することは難しい。まずは都市部を中心にした実証運転などで成果を出す必要がある」(小嶋)という。
スタートアップとの多くの出会いを期待している
こうした「3つのソリューション」に欠かせないのが、スタートアップとの“協創”だ。いすゞ自動車にももちろん長年培ってきた技術があるが、自動運転をはじめ、AI活用などが必要となっている諸分野ではスタートアップ起業とのコラボが重要。協創というギアチェンジによって課題を解決しているという。
スタートアップ企業の仲間探しから社内外の調整までを担っているのは、同社事業推進部の藤田貴史。
「大企業である弊社にとって、技術開発や意思決定スピードが速く、動きも柔軟なベンチャーのそうした部分をうまく取り入れていくことが目標の達成には欠かせません。自動運転、カーボンニュートラル、物流課題等の課題に対して共にソリューション提供の実現に向けてスタートアップ企業とは、積極的にコミュニケーションを取っていき、これからたくさんの出会いを期待しています」。
2030年までに3つのソリューションで1兆円規模の売り上げを目指すという「ISUZU Transformation-Growth to 2030(IX)」。社会課題解決のソリューションを、「商用モビリティソリューションカンパニー」が運んでいる。