試用期間中は無料でクルマを提供
そこで、ルノー社は「Cars to Work」と名付けた施策を実施。就職後の試用期間中は無料でクルマを提供し、試用期間終了後に購入契約をすれば良いようにした。そのために6000台のクルマを用意し、2024年で1500件の購入契約が成立、2025年には6000件が成立する見通しだと言う。
この「Cars to Work」を利用した人の94%が、新しい安定した職を得るために役立ったと考えている。利用者の無期雇用の職への就職率は2.5倍となった。また同じく83%の利用者が仕事人生が豊かになったと感じ、96%がプライベートも充実したと感じているという。
結果、「Cars to Work」は、ルノー社のキャンペーンとして大成功。8800万人のフランス人にリーチし、オリジナルのウェブサイト訪問者は、日々50%増を記録した。
なお、もう1つのバックグランドとして、フランスでは政府が脱・自動車社会を打ち出していて、メディアも連日そのように報じていた、という事実がある。
実際には低所得者こそがクルマを必要としていて、パリに住む政治家やメインストリームのメディアが伝える脱・自動車社会に対して、彼らは「自分達は忘れられ、除外されているのではないか」と感じていたのだろう、とルノー社は言う。だからこそ、そうした低所得者層に役に立つ施策に絞って実施したのだ。
施策の全体像をまとめた事例ビデオの冒頭には、自宅から40キロ離れた場所で教育者として働くMarieという女性や、朝5時30分から配送センターで働くSofianeという男性などが登場し、クルマがなければ働けず食べていけない現実を訴えている。
Renault - Cars to Work (case study)より
この事例のように、自分達が扱う商品やサービスに関連した、メディアなどではあまり取り上げられていない“見えざる社会課題”を発見し、そこに積極的に関与して行く。そんな施策は、多くのビジネス分野で転用できる。