2024年10月3日には、フラッグシップストアである六本木ヒルズ店を舞台に、Forbes JAPANとのコラボレーションによるイベント「Special Night Event in Tokyo – Enjoy Life without Boundaries 境界のない人生を楽しもうー」を開催。トークセッションでは、過去に「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」を受賞した次世代を牽引する2名がエストネーションのセットアップを身に纏い、「発想の転換・相反するものの融合による“価値創造”」をテーマに言葉を交えた。
今回は、登壇者の1人であるサリー楓にインタビューを実施。建築デザイナーとして活動する傍ら、ファッションモデル、セクシャルマイノリティの当事者としてD&I(Diversity & Inclusion)に関する発信を行うサリー楓に、アイデアを生み出すアプローチの方法や相反する価値観の接続について話を訊いた。
日建設計で建築デザイナーとして働くのと並行して、ファッションモデルとしても活動するサリー楓。二足のわらじを履いているが、どちらも“コミュニケーション”である点で共通しているという。
「私にとって、建築はコミュニケーション手段でありメディア。居場所を提供すると同時に、空間を通して何かそのときに必要なメッセージを伝えられたらいいなと思っています。また、建築だけでは思いが届かない場所もあるので、モデルとして情報発信を行っています。建築によって環境をデザインし、モデルの情報発信によって社会をデザインする。自分自身では私の活動を“社会環境デザイン”と呼んでいます」
サリー楓が建築家を志したのは小学生のころ。夢についての作文には、「いつかグッドデザイン賞を取りたい」とまで具体的に目標が書かれていたというが、2024年にはデザインを手がけた「TOILET(トイレット)」プロジェクトで見事にその夢を実現。念願のグッドデザイン賞を受賞した。
「TOILET」は、「男女で分けない、新しいトイレのプロトタイプをつくってほしい」というクライアントからのオーダーのもと進められたデザイン。この要望に対してサリー楓らのチームはトイレを「誰が使うか」ではなく「どう使うか」に着目し、リラックス、リフレッシュ、スタイリングといった用途別に個室をつくった。
「一般的な建築は、図書館や学校のようにある類型化された構造や形式にならってデザインされることが多い。しかし私たちのチームは、“アクティビティ”に注目しているのが強みであり特長です。時代や価値観が変わるなかで、アクティビティと類型的な建物が一致しないことも多くなってきている。だからこそ、人がその建物でどういう行動をしているのかをベースに、新しいデザインの可能性を考えています」
型があっての型破り。伝統の意味を理解することの大切さ
ただ単に突飛なデザインを提案すればいいのではない。サリー楓が考えるのは、伝統やこれまで継承されてきた「型」を学んだうえで、そこに疑いを持ち、柔軟にアップデートしていくやり方。つまり、「型」があっての「型破り」ということだ。
「芸道などで用いられる“守破離”の考え方に影響を受けています。師の教えを守ったうえで、自分の考えを持ち、最後には伝統から離れて独自の世界を構築する。それは私の生き方としても、仕事をするうえでも大事にしているものです。トイレにしても、受け継がれてきた寸法や間取りには必ず意味がある。そうしたものを入念に学んだうえで変えていくことを大事にしました」
サリー楓は、そこにこそ相反する価値観の接続があるのではないかと語った。伝統だけではなく、革新だけでもない。伝統を大事にしたうえでの革新、一方をないがしろにしないことで新たに生まれるアイデアが、価値創造につながる。
「回転寿司屋にいくと、ハンバーグを乗せているお寿司とかあるじゃないですか。あれがあんまり好きじゃなくて(笑)。あれって相反するものを無理にくっつけてショートを起こしちゃっているものの代表例かもしれない。互いの強みがわかったうえで調和が取れたものって、やっぱり美しいですよね」
様式を踏襲しながら着る人によって形が“揺らぐ”自由さ
この日行われたトークセッションで、サリー楓はエストネーションのセットアップを着用した。エストネーションは「Designers(デザイナーズ)」「Dress(ドレス)」「Contemporary(コンテンポラリー)」「Casual(カジュアル)」の4つのカテゴリーに分けてバリエーション豊富なセットアップを展開しているが、その中からサリー楓が選んだのは「Casual」のカテゴリーに分類される一着。「カチッとしたシルエットに見えるけれど、着てみたらとても軽やかで、歩いてみると風を含んで少し揺らめいたりするのがとてもいいと思いました。一般的にこういうジャケットって折り目をつけたり糊を利かせたりしてパリッとさせるのがセオリーだと思うんですけど、これはボタンも一切なくて、人が動くことを想定した、輪郭のない自由さがある。
それは私が建築の上で大事にしているアクティビティ重視のデザインや守破離の考え方にも通じるものがあると思って迷わず手に取りました。セットアップの様式を踏襲しながら、その形が着る人によって“揺らぐ”というところに魅力を感じます」
トークセッションの舞台上にはもう一着、「Designers」のカテゴリーから選ばれたセットアップをセレクトしていたサリー楓。ライフスタイルや好みにぴったり合うファッションだったようだ。
「『Casual』の一着とはまた全然違うデザインで面白いですよね。襟元や肩のラインはやはりしっかりとセオリーを抑えながらも、ジャケットにはフレアが付いていたり、袖元は余裕があったりする。その使い分けが自分のキャラクターと重なっていいなと思いました」
次の時代のスタンダードを提案したい
サリー楓は、日常生活において“スイッチを入れたい”と思うときにファッションを活用することも多いと語る。在宅勤務のときもあえて時計を身につけることでオンを意識し、仕事に取り組むマインドに切り替えているのだとか。
「私にとって、心と服は一体化しているんです。休みのときは、パジャマのような楽な着心地の服を着ています(笑)。今日着ているエストネーションのセットアップも着心地がパジャマみたいに軽いんです。でも、見た目は明らかにオンの服なのでしっかり仕事のスイッチが入る。だからこれは、リラックスしながらアイデアを出したいクリエイティブワークのときに最適なファッションかもしれません」
日常と非日常という相反する価値観。生きていくうえで必要な非必需品を提供するエストネーションは、相反する価値観をつなぐことで新たな価値を創造し、独自の世界観を生み出しているブランドだ。まさにこの1着から、日常と非日常の接続した過ごし方が生まれている。
今後のクリエイティブから、どんな新しいアイデアや建築デザインが生まれるのか。そうした期待が膨らむが、最後にサリー楓の未来の展望について教えてもらった。
「8歳のときに書いた作文には、『グッドデザイン賞を取りたい』という目標ともうひとつ『ユニバーサルデザインを実現したい』という夢が書かれてあったんです。50%までは叶えられたので次は、誰でも使える建築デザインというものを目指したいです。
守破離で言えば、まだまだ私は修行を積む段階。それは一生なのかもしれませんが、セオリーを守りつつ離れるということにも同時にチャレンジし続けていきたい。「TOILET」をデザインすることで伝統から離れることはできたと思うんですけど、これが次の時代のスタンダードにならないと意味がないと思っています。特殊解ではなく、それが普遍になるように。今日考えたアイデアが未来の当たり前になっているような、そういうものを今後、提案していけたらいいなと思います」
エストネーション
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さりー・かえで◎1993年、京都府生まれ。幼少期より建築に興味を持ち、慶應義塾大学大学院で建築を学ぶ。日建設計の都市・空間デザインを提案するNADにてコンサルタントとして活躍。『Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022』受賞。