「2019年、ジェンダード・イノベーションという概念を知ったとき、衝撃を受けました。その日以降、経済産業省や内閣府の委員会をはじめ、さまざまなところでその重要性を訴え、政策提言を行ってきました」
ジェンダード・イノベーションとは、性差に基づくという意味の「ジェンダード」と「イノベーション」を組み合わせた造語だ。科学技術分野では、男性が研究や開発の対象や基準となることが多い。同分野の研究・開発で性差を考慮することで新たな発見やイノベーションが創出される。自然科学、健康・医療、工学、環境科学をはじめ幅広い分野に影響があり、世界的に注目されている概念だ。
近年では、性自認・年齢・障がい・人種・経済状況といった交差性分析が加わり、より多様性を重視している。「日本は非常に立ち遅れている」と危機感をもった佐々木成江は政策提言を行うとともに、19年より名古屋大学とのクロスアポイントでお茶の水女子大学にも所属。学長補佐として22年4月に設置された同大「ジェンダード・イノベーション研究所」の立ち上げに携わり、特任教授を務めてきた。
ジェンダード・イノベーションは、政府がまとめた女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)にも22年にはじめて記 載され、24年にはさまざまな分野におけるジェンダード・イノベーションの推進(5カ所)が盛り込まれた。企業からの講演依頼も多く、社会実装に向けて動き出している。
24年から横浜国立大学で客員教授/学長特任補佐となった佐々木は「大学や高校などの研究・教育機関にもこの概念をさらに普及させたい」と意気込む。同大学では学長のリーダーシップもあり、研究者たちと直接対話をしながら推進している。
また、セコム科学技術振興財団によるジェンダード・ヘルスサイエンス分野への研究助成も開始。さらに、故郷である福井県の教育委員会が主催する「ふくいGirls未来のテックリーダー」プロジェクトの一環で、県内の高校に出向き講演を行うなど精力的に活動を続けている。
また、佐々木は同時期から東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻特任准教授として、専門である分子生物学の研究にも注力する。「ミトコンドリアの機能面で性差が存在し、疾患の性差にも関与することがわかってきている。その研究も本格化していきたい」