東京大学国際高等研究所東京カレッジ准教授の江間有沙は、国連が2023年10月に設置した「AIに関するマルチステークホルダーによるハイレベル諮問委員会」のメンバーに選出され、議論に参加した。
「政府のAI戦略会議や(G7を中心とする官民の国際連携組織で)世界20数カ国が参画している『AIに関するグローバルパートナーシップ(GPAI)』、(ソニー、アップル、IBM、インテルなどが参加しAIの課題に共同で取り組む国際団体である)『パートナーシップ・オン・AI』にも参画してきたが、それらよりもはるかに多様な議論が行われた」(江間)
同委員会は128カ国、1800人以上の候補者から選ばれた39人の専門家によって構成され、世界的な喫緊の課題ともいわれているAI利用のリスクや国際ガバナンスなどが対象。期間内に、主要7カ国(G7)の首脳会議で各国が生成AIの規制のあり方について議論するための「広島AIプロセス」が立ち上がるなど急速に「AIの進化」が進むなか、倫理的、法的、社会的な側面からも議論を行い、24年9月の国連未来サミットでのAIガバナンスに関する最終勧告の公表を行う。
「『AI先進国』『AI先進企業』がリードするのではなく、国連加盟国193カ国、誰ひとり取り残されないためにはという観点が重視される。性別、地域、年齢、属性のバランスが重視されたメンバーでの議論は予定調和とならず、気づけた点も数多かった」
国際的な場で活躍する一方、今夏には国内で「AIに関する市民の対話ワークショップ」も開催した。「日本はAIに関して産学官の連携についての取り組みは多いが、『民』の参画への経路が開かれていない」という問題意識があるからだ。
江間の専門は科学技術社会論(STS)だ。科学技術が政治や経済、文化などの社会との海面で生じる課題を研究する学問であり、社会に埋れた課題を指摘する側面とその課題への対策を社会に働きかける側面ももつ。「AIを考えることは『私たちはどういう社会に住みたいのか』をあらためて考えること」と発言してきた江間。
「テクノロジー領域は技術だけでなく、価値や倫理、法律、制度、市場、政治といった社会からも考える必要がある。(国連の諮問機関を通して)AIガバナンスは競争領域ではなく協調領域であるからこそ、垣根を越えてみんなで議論・対話をしていく必要性があり、場づくりがより重要になるとあらためて強く思った」