2013年の日本法人設立後、独自のパートナーセールス体制を導入し事業を拡大させた同社は、どのような考えやアプローチでパートナーシップを築いてきたのだろうか。
クライアントの事業創造にハンズオンで伴走するJenerate Partnersとともに、事業のサポートを外部パートナーに委託する側と受託する側、それぞれの立場から、パートナーシップによる価値を最大化する考え方やアプローチについて考える。
米国Boxの日本法人として2013年に設立したBox Japanは、事業の立上げにあたり、パートナーを積極活用した顧客開拓方針を採っていた。そのなかでSME領域でのターゲット・セグメンテーションや訴求ストーリー作成の伴走、またインサイドセールスによる顧客開拓の伴走を担ったのがJenerate Partnersだ。これをきっかけとして取引の始まった2社を代表して、Box Japan 上席執行役員 チャネル営業本部 本部長 兼 アライアンス・事業開発部 部長 安達徹也(以下、安達)と、Jenerate Partners 代表取締役 二ノ宮尉(以下、二ノ宮)が「パートナーシップ」をテーマに、意見を交わした。
パートナー企業は同じ船に乗る仲間
――まずはそれぞれ自己紹介をお願いします。
安達:Box Japanで、パートナービジネスを担うチャネル営業本部長兼アライアンス・事業開発部長として、日本市場でビジネスを拡大するために求められる外部企業とのパートナリングを統括しています。
二ノ宮:Jenerate Partnersは、顧客の事業創造、新規事業立ちあげに特化したサービスを提供していることが特徴のひとつであり、戦略立案から計画の策定、事業開発支援、M&Aの実行支援など、事業創造に関する幅広い領域を一気通貫でサポートしています。
――Box Japanでパートナー企業を積極活用しているのには、どのような理由があるのでしょうか。
安達:自社に不足しているケイパビリティを補うこと、そして第三者視点を得ることが主な理由です。第三者視点は、マーケットとの間に生じるギャップを埋めるために必要不可欠だと考えています。社内メンバーだけでプロジェクトを進めてしまうと、自社プロダクトへの思いが強すぎるあまり、マーケットとの間にギャップが生まれてしまうことがある。私たちとパートナー企業は単に委託者と受託者という間柄ではなく、我々と同じ思いを胸に、ともに汗をかいていただける関係を築くことを心がけています。
二ノ宮:パートナリングとしては理想的な関係性ですね。ともに汗をかくというのは、当社が顧客支援を行う際に大切にしているプリンシパル(当事者)視点と近しい言葉だと思います。これは、お客さまが直面する課題や達成したいことを同じ立場から捉え、私たちがもてる力をしっかり使いきることを意味しています。
安達:よく他の企業の方から「どのようにパートナー企業を選んでいますか」と聞かれるのですが、その際は「仕事をするうえで、私たちと同じ船に乗っているという気持ちをもってもらえるかどうか。この気持ちを重視しています」と答えています。まさに二ノ宮さんがおっしゃるプリンシパル視点をもってもらえるかどうかということですね。
目的に真摯に向き合うスコープレス思考がプロジェクトを動かす
――事業創造には不確実性が伴います。理想的なパートナリングのカタチとはどのようなものだと考えますか。二ノ宮:確かに、未来に向けて推進していく事業創造プロジェクトにおいて何が課題になるかは、その時になってみないとわかりません。そこで、私たちはスコープレスな支援を心がけています。つまり、プロジェクトの開始時にスコープを細かく定義せず、プロジェクトの進行とともに直面する課題をその都度解決していくアプローチをあえてとる場合もあります。
事業創造には、仮説を立て、実際に市場にアプローチして実証していくという「マーケットと対話する検証機能」と、そうしたPDCAサイクルを回しながらビジョン・戦略・計画から修正し、その方針を役員や投資家にコミュケーションしていく「戦略思考」の両方が求められます。その点において当社は、戦略の立案、事業開発、開拓営業などを確実に実施できる機能をもっており、事業創造分野で総合的に戦える体制を整えています。
安達:スコープレスというと、支援を受ける企業のなかには不安に感じる担当者もいるかもしれません。ですが冷静に考えれば、柔軟に対応してもらえる方は頼りがいがありますよね。二ノ宮さんがおっしゃる通り、新しいことを始めるフェーズは、わからないことの方が圧倒的に多いと考えるのが自然。逆によくわかっていると思うのは、思い込みが強いということなので、非常に危険だと思いますね。
二ノ宮:支援先の企業の方にそのような考えをもっていただけると、我々としてもとても心強いです。一見非効率に見えるかもしれませんが、スコープレスといっても、闇雲に動き回るわけではありません。いわば目的に真摯に向き合うということ。臨機応変に行動した方がかえって目的に到達しやすくなる。柔軟さがなければ、新規事業創造プロジェクトのなかで仮説検証のPDCAサイクルを回しきるのも難しいですからね。
事業創造プロジェクトにおいて発生し得る大きな問題は、当初の計画通りに物事が進まないことと、計画通りに進んでも結果が出ないことの2つ。前者は当初のプランを見直して別案を進めることで、後者は結果が出るまでやりきることで解決していくことになります。問題から目を背けず、むしろ積極的に介入していく姿勢を私たちは大切にしています。
支援する側もされる側も、互いがベストパートナーを目指す
――パートナリングを進めるうえで発生する障壁について、どのような対応が好ましいとお考えでしょうか。安達:プロジェクトを進めるうえで、方針を大きく変更しなければならないことがあります。しかしパートナー企業の方々は、当初決めていた枠組を前提としたなかでプロジェクトを進めてくださっています。ゆえに例え小さな路線変更であっても「変更=負荷またはデメリット」という印象を与えてしまうケースは少なくありません。
理解を得るには、変更することを一方的に伝えるのではなく、お互いのメリットとデメリットを整理し、背景を含めて変更の必要性を丁寧に説明することがとても重要だと考えています。
二ノ宮:「どれだけ計画としてきれいでも、事業承認を意思決定するだけの納得感に乏しく、プロジェクトを前に進められない」というのはパートナー様からよく耳にする悩みです。そうした場合、支援する側の私たちは、事業としてプロジェクトを前に進めた先のイメージをできるだけ具体的に提示します。プロジェクト特性によって異なりますが、実際に利用していただけるユーザーや発注先となり得る企業、売却意向のある企業の具体的な意向を回収・整理するといった具合です。
安達:実行力があるのはもちろん、そのような発想で支援してもらえるのはうれしいですね。
二ノ宮:実行力というところでいえば、マーケットを理解するために、自分たちでしか得られない情報を積極的に取得しようとする姿勢は、他のコンサルティングファームに比べて強いかもしれません。Jenerate Partnersでは社内にリサーチ機能を有していますが、自らの手足を使って丁寧かつ徹底的にマーケットを理解することが、私たちの調査・検証のスタイルとなっています。
――パートナー活用における今後の展望についてお聞かせください。
安達:継続的な事業成長には常にチャレンジが必要です。そのためには、今後も外部のパートナー企業の方の知恵とお力が欠かせません。繰り返しになりますが、パートナリングにより、社内で不足しているケイパビリティを補うだけでなく、シナジーが生まれることを大いに期待しています。
二ノ宮: 私たちは、外部から助言するアドバイザーとしての関与にとどまらず、お客さまが抱える問題に気付き、解決方法をともに考え、一緒に乗り越えていく本当の意味でのパートナーとして伴走したいと思っています。また弊社が目指しているのは、伴走を通じてクライアント企業内に事業立上げの機運を生み、究極的には当社が関わらなくても新しい事業創造が大企業発で活発になされていく社会の実現です。これからも事業創造に苦慮されるお客さまのプロジェクト推進に欠かせないベストパートナーになれるよう尽力していきたいと考えています。
安達:「ベストパートナーでありたい」という二ノ宮さんの思いは、我々も同じです。私たちもパートナー企業の方々にとってベストパートナーでありたいと考えています。私たちが一方的にパートナーを選ぶのではなく、相手もパートナーを選ぶ立場であることを念頭に信頼関係を築いていきたい。これから取引を始める新たなパートナー企業だけでなく、既存のパートナー企業の方々のポテンシャルをさらに引き出す努力もしていきたいと思います。