中古スマホ回収でSDGsに貢献
――まずは住友商事が取り組んでいるLCM(Life Cycle Management)プロジェクトについてお聞かせください。小谷:我々スマートサーピス事業開発ユニット スマートデバイス事業チームが取り組むのは、使われなくなった中古スマホを回収し、新しい価値を生み出すための仕組みづくりです。古くなったスマホは買い替えの際に通信キャリア各社のショップが回収するのが一般的ですが、そこで回収できる端末はほんの一部。実際のところ、中古スマホの多くはユーザー宅のタンスや引き出しのなかに眠っています。こうした状況を変えるための仕組みを構築しようと、さまざまな施策に取り組んでいるところです。
――そもそもなぜ住友商事が中古スマホの回収事業に取り組むのか。その背景をお聞かせください。
小谷:大きく2つあります。ひとつは「枯渇性資源」の再利用。スマホで使用されているレアメタルは「枯渇性資源」であり、そのうちのコバルト、ニッケル、パラジウムなどは2050年までに世界中の埋蔵量を完全に使い切ると言われています。こうした資源を再利用することで、今ある資源を有効活用していきたい。
もうひとつは、我々が長年培ってきた通信事業の経験を活かすこと。当社はモンゴルやミャンマー、エチオピアで通信事業者としてインフラを一からつくり運営する事業を行ってきました。日本ではまず目にすることはありませんが、海外で流通している端末のなかにはとても粗悪なものも出回っています。また、ネットを快適に利用できないような端末しか手に入れることができない地域もある。日本をはじめとした先進国で端末を回収・最適化し、必要な人々に価値ある端末を届けたい。
このような思いから、日本を含めたグローバル全体での回収と再利用の循環の実現を目指しています。
山本:環境への貢献でいえば、中古スマホの再利用により、新製品の製造や流通の際に排出されるカーボンオフセット効果も期待できますね。
小谷:おっしゃる通りです。加えて、比較的安価に提供できる中古品を開発途上国に普及させることができれば、教育が行き届いていない地域でオンライン教育が受けることができたり、モバイルマネーにより金融サービスが利用できたりするようになる。安心・安全な中古端末を流通させることは、グローバルな社会課題にもアプローチできると考えています。
――LCMプロジェクトにおいて、renueはどのような役割を果たしたのでしょうか。
山本:日本市場において、スマホ端末を回収・再販するプロセスを構築するために、事業アイディアを出す議論から運用構築準備、プロモーション実行まで、全体を通して何でもやらせていただきました。
小谷:renueさんに期待したのは、仮説検証のサイクルを早く回すこと。当社のような規模の企業だと、アクションを起こすにも多くの社内関係者と折衡し、複雑な社内プロセスを踏む必要があり、時間がかかってしまう。こうした背景から、一手に引き受けていただける社外パートナーとの協業の必要性を感じていたところ、AI関連のある展示会で山本さんにお会いすることができた。これは我々にとって、とても大きな出会いとなりました。
山本:私はrenueを立ち上げる前に在籍していたベンチャーで、中古品の買取比較やフリーマーケットなどのサービス運営に携わっていました。中古スマホ専門マーケットのプロダクトオーナーの経験もあったので、我々がご提供できる内容についてお話しさせていただいたのが始まりです。最初は有識者として住友商事様にインタビューをしていただいたのですが、数時間では話しきれないため、一緒に市場仮説を確かめようという方向で本取り組みを開始させていただくことになりました。
小谷:renueさんは専門的な知識が豊富で、とても心強かった。中古端末を回収するための消費者行動の設計や、マーケティングのあり方など深いコミュニケーションをとれたことで、複数のトライアルに挑戦できたと実感しています。
パートナーシップに忖度は必要ない
――コンサルティングサービスでは、発注時の要件に縛られてPDCAをスピーディに回せないといったケースをよく耳にします。今回のプロジェクトではいかがでしたか。小谷:私たちが理想とするパートナーシップは、パートナーが私たちと対等の立場にあること。ただ、この条件を満たしていただくには、事業に対する十分な知識はもちろん、論理的な思考力やこちらの仕事の進め方への理解などがあることが前提となります。その点、山本さんをはじめとするrenueの方々は申し分ありませんでした。PDCAもスピード感をもって展開でき、安心して取り組むことができました。
山本:ありがとうございます。renueでも多くのクライアントのプロジェクトに関わらせていただいていますが、受託者側がパートナーに対して「あくまで外部の人間」という意識では、事業の創出はうまくいきません。住友商事の方々は私たちをチームメンバーの一員として見てくださったおかげで、少数精鋭のベンチャー企業のように取り組むことができたという印象をもっています。
小谷:短期で目標に向かうという大命題があるなかで、忖度は邪魔なだけですから。そこのベクトルがぴったりあっていたのは幸運だったと思います。実際に、renueさんとのディスカッションは、毎回とても盛り上がったと記憶しています。
山本:当社の新規プロジェクト創出支援における報酬形態は、レベニューシェアや成功報酬など、一般的なコンサルティングサービスでは珍しい形をとっています。我々はリスクを負う覚悟で、プロジェクトの成果に徹底的にコミットする。だからこそ、クライアントに厳しいことを申し上げることも珍しくありません。
小谷:山本さんをはじめとするメンバーも忖度なしで意見を言っていただけるので、私たちとしても現状を正しく理解して議論を進めることができた。まさに理想とするパートナーシップを築けたと思っています。
雑談から生まれたアイデアをカタチに
――パートナーシップを成功させる条件について、それぞれの考えを聞かせてください。小谷:重要なのは、プロジェクトの土台となる戦略部分をパートナーにきちんと説明し、理解してもらうことです。当事者意識をもってプロジェクトに臨んでくれる相手なら、それでことはうまく運ぶはずです。加えて密なコミュニケーションを図ることですね。
あるとき、本プロジェクトを進めていくなかで「デジタルサイネージでサービスのテーマソングを流したらどうか」というアイデアが出ました。すると2日後くらいに、山本さんからイメージとして生成AIを使って2、3曲制作してみたとご連絡をいただいたんです。
最終的にはAIの制作物を元に人間の手で編曲しましたが、renueさんのフットワークの軽さはもちろん、先進テクノロジーに対する感度や発想の柔軟さ、引き出しの多さにはいつも驚かされます。実のところ、これは雑談から始まったこと。日ごろから十分なコミュニケーションがとれていたからこそ実現できた施策だと思います。
山本:さすがに弊社としても、作曲までしたのは初めての経験でした。ただ、熱量があるうちにアイデアをカタチにすることはとても重要だと考えています。それがプロジェクトに携わるメンバーすべてのモチベーション創出につながり、さらなるアイデアを生む。繰り返しになりますが、委託する側と受託する側、どちらも同じ目線で取り組むことが課題の糸口を見つけることになると思います。
また支援する我々の立場では、自社だけではなく、特別な知識やスキルを持つ人材や企業とともにクライアントの課題に取り組むケースがあります。そうした場合では、我々のパートナーに対し、適切なインセンティブを提示し、プロジェクトに関わることでパートナーにどのような価値を与えられるのかを伝えています。ただ人員を増やすだけでは、当事者意識を持って挑むことは難しい。パートナーに取り組む意義を伝えることで、メンバー全員の意識を高めていくことを大切にしています。
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
小谷:renueさんとの取り組みによりLCM事業を進めるうえで立てた、いくつかの仮説が検証できました。今後は、この結果を元に国内外に対する戦略の可能性を探っていくつもりです。プロジェクトをさらに拡大、本格化していければと考えています。
山本:これから数年でAIに最適化された半導体チップを搭載したスマホが、続々と登場すると予想されています。そうなれば、スマホを介した体験が大きく変わり、中古スマホ市場も転換期を迎えるでしょう。これを見据えて新たな事業の可能性を探り、住友商事様と新しい事業開発を行っていければと考えております。
renue
https://renue.co.jp/
住友商事
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp
やまもと・ゆうすけ◎renue 代表取締役。2008年京都大学工学部に入学。10年に同大学を中退し、東京大学文学部ドイツ文学科に入学。卒業後はアクセンチュアにて金融・ITのコンサルティング業務に従事したのち、ジラフにてプロダクトオーナーやCMOを兼任。その後フリーランスを経て21年3月設立。
こたに・たけひこ◎住友商事 スマートサービス事業開発ユニットスマートデバイス事業チーム長。2003年入社。IT企画推進部で社内ネットワーク構築を担当。以降、WEBビジネス事業企画部、ダイレクトマーケティング部を経て、16年よりミャンマー通信プロジェクト部でミャンマーヤンゴンに駐在し、現地通信会社へ出向。23年より現職。