日本都合のダイバーシティやインクルージョンへの危機感
そして自力で勝ち得た一勝だったが、私のなかでは、いくつものモヤモヤが残っていたのも事実だった。例えば、2002年、日韓でワールドカップが開催されたが、今回のホームレス・ワールドカップでは、日本との共催は叶わなかった。日本代表のユニフォームの使用もできない状況は、13年前と変わりがない。例えば、日本サッカー協会と我々との連携に尽力いただいた数名により、グラスルーツパートナーまでの関係ができたが、その方々の異動でそれ以上の公式な関りがなくなってしまった。そもそも、日本のサッカー業界の関係者で、ホームレス・ワールドカップを知っている人は少なく、協業するハードルが依然高いと言わざるを得ない。
13年前からの唯一の変化は、スポンサーがついたことだ。オフィシャルスポンサーとして、株式会社LIFULLに就任していただいた。これまで不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」を通して、ホームレス状態の方を含む生活困窮者や家族に頼れない若者などあらゆる人の叶えたい暮らしの実現をサポートしてきたことや、ホームレス・ワールドカップのビジョンに共感を頂き、資金面、ユニフォームのデザイン、広報活動の協力を頂いた。
しかし、日本のビジネス界でダイバーシティやインクルージョンという言葉をよく聞くようになったものの、海外チームに比べると企業スポンサーは少ない。日本で使われている様々なカタカナ語の薄っぺらさに危機感を持ちつつ、むしろ呆れてしまう。
スポーツの可能性を引き出す
先述の通り、私たちは、ホームレス・ワールドカップへの出場をあきらめていた。理由は様々であるが、スポーツが有する“負の側面”への対処に悩んでいたためだ。例えば、競技に内在する暴力性、勝敗という優劣の価値観・物差し、広告宣伝など経済価値化される選手やチームなどだ。 例えば、暴力性については、手段を選ばずに勝利のみを追求する姿勢や指導者の知識・指導技術不足、ラフプレーなどの暴力行為を是認・許容・黙認してしまう環境(それを観て盛り上がる観客を含めて)様々な根深い問題があり、ホームレスワールドカップにもこの側面が大いにある。2013年、日本スポーツ協会(当時日本体育協会)やJOCらスポーツ関係5団体が採択した「暴力行為根絶宣言」から早くも10年が経過したが、道半ばにある。今大会では、ギリシャが13年前の私たちと同じような状況になっていた。高齢の選手が多く、立て続けの敗戦に、コーチも選手も疲れ果て、やる気を失っている様子が明らかだった。