現在、発電による二酸化炭素排出を削減する動きの一環として、世界中で原子力が見直されつつある。今回のカザフスタンの国民投票の結果は、近代化で重要な岐路に立つ同国のエネルギー政策を左右するものとなる。それと同時に、これは重要な公共政策を決定するに当たり、政府が民意に耳を傾けている例でもある。
原子力に対するカザフスタン国民の意識は、ソビエト時代の核開発計画によって歴史的に翻弄(ほんろう)されてきた。カザフスタンはかつて、ソビエト連邦の原子爆弾の実験場で、核廃棄物の処理場としても使われていた。だが、ソ連が崩壊すると、核兵器保有量が世界第4位だったカザフスタンはすべての核兵器を即座に放棄した。今日でも、同国では原子力を巡って賛否が分かれている。国民投票に向け、政府は20回に及ぶ公聴会を開いたが、参加者の感情が高ぶる場面もあった。
カザフスタンは世界最大のウラン生産国であることから、原子力発電を導入し、天然ガス輸入の必要性を減らせば大きな利益を得られる立場にある。同国は現在、人口増加と産業の発展により電力が不足し、近隣諸国から電力を購入せざるを得ない状況にあるが、この傾向は今後さらに悪化するとの予測もある。カザフスタンが原子力発電を導入すれば、燃料となるウランを国内で供給することができ、二酸化炭素を排出しない発電法によって電源構成を多様化するとともに、電力不足を大幅に改善することができる。
しかし、原子力発電所の建設を進めるに当たっては、国民の不安を和らげることから、困難を極める可能性のある地政学的な逆風を乗り越えることまで、同国はあらゆる課題に対処しなければならない。カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領はかねてより、国民の懸念に「耳を傾ける国家」という構想を打ち出しており、国民の意見を聞くことは同大統領の願望でもある。
国民から原子力発電所の建設に対して承認を得た今、同国が安全で近代的な原子炉を建設するためには、外国と協力する必要がある。最も有力な候補はロシア、中国、韓国だが、フランスなどの西側諸国も入札への意向を示している。
ロシア国営原子力企業ロスアトムは、過去数十年間にわたって海外で原子炉を建設してきた実績がある。ロシアは最近、ウズベキスタンと中央アジアで初となる原子力発電所を建設する契約を結んだ。ロシア大統領府(クレムリン)が公表した文書によると、ロスアトムは出力55メガワットの原子炉を最大6基建設する予定で、2018年に合意した2.4ギガワットの計画よりはるかに小規模なものとなる。
カザフスタンとロシアは古くから戦略的・経済的な協力関係にある。両国はともに、独立国家共同体(CIS)、ユーラシア経済同盟(EAEU)、集団安全保障条約機構(CSTO)、上海協力機構(SCO)に加盟している。世界最大のウラン採掘企業であるカザフスタン国営カザトムプロムは、すでにロスアトムと協力関係にある。こうした背景から、カザフスタンがロスアトムと合意することは理にかなってはいるものの、ロシアに制裁を科している西側諸国は眉をひそめるかもしれない。