「発見される」文化の奥義とは何か 文化庁・都倉俊一長官インタビュー

都倉俊一|文化庁長官

都倉俊一|文化庁長官

明治以来、日本の省庁として初の地方移転を果たした文化庁は今、京都に拠点を置く。受け継がれる文化と、新しく生まれる文化。それらを守り、育てる気構えを文化庁長官 都倉俊一に聞いた。
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江戸っ子の私が京都に移り住んで3年あまり、日々日本文化における「侘び寂び」を再発見しています。

例えば、国宝級の千利休の茶碗を手に入れた人がいて、客人をお茶に招くとするでしょう。でも主人はその茶碗のことを特に言うわけでもなく、そこに置いておく。客人がそれに気がつかなければ、そのまましまってしまう。目利きが「この茶碗は……」と気がつけば「実はそうなんですよ」と、そこから会話が弾むわけです。つまり、見つけてもらうまでは何も答えない。

こうした伝統こそが侘び寂びであり、客人との一期一会の時を助けるものなんですよ。
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そういった文化は日本人が何千年と大切にしてきた感覚であり、国がわざわざ喧伝するようなこともなく、いつのまにか世界によって「発見」されてきたものでした。

国内市場のサブカルチャーが世界のメインカルチャーに

私はかつてマンガで育ちました。今、そのマンガやアニメなど日本のコンテンツが世界を席巻しています。アニメはもともと英語のアニメーションを略した言葉ですが、今は英語の辞書にも独立した単語として掲載されているほどです。以前はサブカルチャーと呼ばれていたアニメやマンガは、世界でメインのカルチャーになっています。
 
先日フランスに行って驚いたのは、パリ周辺にマンガ専門の店が多いこと。まるで秋葉原のようでした。あるアメリカの金融会社が公開したエンタメ作品の世界総収益ランキングを見ると、1位がポケモン、2位がキティちゃん(ハローキティ)で、そのほかメイドインジャパンのコンテンツが多数ランクインしている。先ほどのフランスにはマンガ博物館がありますし、中国や韓国にもニューメディアを扱う施設ができています。世界が日本のマンガやアニメを「発見」し、憧れとリスペクトをもって広めてくれている証しです。
 
歴史的に見ても、ゴッホが影響を受けたのは歌川広重や葛飾北斎などの浮世絵でした。日本の文化はこのように、誰かによって常に「発見されてきた」歴史をもっているのです。

インバウンドがもち帰る日本の「見えない」文化

インバウンドがついに3000万人を超えて、大阪万博が開催される来年は4000万人に到達するといわれています。年間4000万人の人が来る、こんな国はなかなかない。なぜこんなにやって来るのかといえば、日本の文化に憧れているわけです。日本に来れば、あまりにその文化が多様なので、彼らの多くがまたリピーターとしてやって来るんですよ。

彼らが日本で気に入っているのは、マンガやアニメのような目に見えるものだけではありません。例えば、冒頭で触れたような侘び寂びの感覚がそうです。雨の日にデパートで買い物をしたら、立派な紙袋の上にさらにビニール袋をかぶせてくれるじゃないですか。そんな国はどこを探したってありません。日本人はほとんど意識していないけれど、僕らのなかにそうした気遣いというか、おもてなしの精神が根付いていて、旅行者たちはそれをいちばんのお土産として帰っていく。それもまた文化です。
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文=西澤千央 写真=桑嶋 維 編集=神吉弘邦

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