「発見される」文化の奥義とは何か 文化庁・都倉俊一長官インタビュー

わが国には有形無形を問わず、無数の文化財があります。ただし、労働効率的には決してプロフィッタブルなものばかりではありません。

京都迎賓館に行ったことはあるでしょうか。そこは匠の象徴のような場所で、例えば東西の建物をつなぐ「廊橋」の天井を見上げると、トンボの透かし彫りが施されている。誰も気づかないようなところで、京欄間職人が一つひとつ丁寧に仕上げる。こんな素晴らしい建物が採算度外視でできたのはなぜでしょう。京都の職人は、このプロジェクトに参加することこそ一流の証しととらえ、コストパフォーマンス抜きで仕事をしてくれたからです。お金を稼げない文化芸術というのは、2000年前から日本人が大切にしてきたものでもあるんです。

稼げるところでは稼ぎ文化と経済を好循環させる

文化には「維持、修復、継承」が不可欠。日本は、ともすれば、文化芸術は崇高なものであって、芸術家は霞を食って生きる、金のことを言うんじゃない、という風潮がある。しかしアートビジネスは、世界的にもう巨大なビジネスに膨れ上がっています。

そこで私が提唱しているのが「CBX(カルチャー・ビジネス・トランスフォーメーション)」という考え方です。アニメやマンガ、音楽など稼げる分野に関して、国はもう目いっぱい応援して巨大産業に育て上げればいい。その一方で、先日は大阪で「文楽」の補助金見直しが話題になりました。私は文楽を日本の宝だと思っているのですが、経済効率に関しては決して良くないわけですよ。人形1体を3人がかりで動かして、しかも人形は小さいから武道館でやるわけにはいかない。でも、こういう文化を「経済効率が悪い」と切り捨てていいわけがない。

だからこそ、国がその配分をするしかないのです。稼げるところでしっかり稼いで、文化全体の維持、修復、継承にお金を回す。これこそが文化芸術と経済の好循環、カルチャー・ビジネス・トランスフォーメーションです。国もまた、文化の発見者でなければならないと私は考えます。

この好循環を実現させるためには、十分な予算と体制が必要です。任期を終えてこの仕事を辞めた後でも、旗を振り続けてやるからな、と日々そう意気込んでいますよ(笑)。

日本の文化が国策として派手にプロモートされなかったのは、侘び寂びの感覚と相いれないせいもありましたが、世界におのずと発見される力があったのも事実でしょう。長い歴史を誇る西洋文化が“ネタ切れ”になりつつある現代、わが国における新旧の文化にグローバルな注目がますます集まっています。その存続と発展を自然なかたちで後押ししたい。官民の知恵と力を合わせ、たくさん汗をかく覚悟です。

【特集】世界を動かすカルチャープレナーたち

9月25日発売のForbes JAPAN 2024年11月号は、文化と経済活動を両立させ、新たな価値を生み出そうとする「カルチャープレナー」を総力特集。文化やクリエイティブ領域の活動で新しいビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようとする文化起業家を30組選出し、その事業について紹介する。


都倉俊一◎第23代文化庁長官。作曲家、編曲家、プロデューサー。学習院大学法学部卒。小学校時代と高校時代を過ごしたドイツで基本的な音楽教育を受ける。大学在学中に作曲家としてデビュー。海外各国でも音楽活動を行う。山口百恵やピンク・レディー、山本リンダらをスターに育てた。ヒット曲数は1100曲を超え、レコード売り上げ枚数は6000万枚を超える。2021年4月より現職。

文=西澤千央 写真=桑嶋 維 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事