昨年12月にインデックス・ベンチャーズを突然辞めたマーク・ゴールドバーグ(39)は、家族と出かけた旅行先で、同じ業界の友人のイーサン・カーツワイル(45)からの電話を受けた。その頃、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズに務めていたカーツワイルは、数週間前にゴールドバーグが提案した「一緒にチームを組んでみたらどうだろう?」というアイデアに乗り気だと話した。
次に彼らが電話をかけたのは、カーツワイルの元同僚で、その当時a16zに務めていたクリスティナ・シェン(37)だった。彼女はその頃、第3子の出産を控えていたが、「3人目の共同創業者にならないか」と誘われた。「ちょっとクレイジーかもしれないが、今がその時だ。ターゲットを絞ったファンドで攻めに出てみよう」とゴールドバーグは説得した。
その後の数カ月で3人は、連日のWhatsAppチャネルでのやり取りやディスカッションを経て、最終的にサンフランシスコの北のスティンソン・ビーチで数日間のオフサイトミーティングを行い、会社の立ち上げを決めた。この新ファームの計画については、4月にAxios(アクシオス)が最初に報じていた。
「業界でキャリアを積んだ人たちが、最適なタイミングで集まった。これは、非常に稀なことだと思ったんです」とシェンは語る。
そうやって生まれたケミストリーは、初回のファンドで3億5000万ドル(約532億円)を調達して始動した。ゴールドバーグ、カーツワイル、シェンの3人が対等な関係を結ぶ同社は、主にフィンテックや業務ソフトウェア、開発者向けツールなどのB2Bのスタートアップを対象とする、シリーズAの投資にフォーカスする予定だ。
ケミストリーは、個々の投資先に深く関与するハンズオンの投資を行い、各パートナーが今後の3年間で2~3社に投資していくという。同社の強みは、スタートアップの創業者に対して、大手のVCファームと同様な経験と実績に裏付けされたアドバイスを与えつつも、大きなファンドでは難しい、きめ細かなサポートを提供できる点にあるという。
多数のユニコーンを発掘した実績
ケミストリーの3人のパートナーは、これまで数多くのスタートアップを成長軌道に乗せてきた経験を持っている。AI分野の重鎮で発明家のレイ・カーツワイルの息子であるイーサン・カーツワイルは、ベッセマーに在籍時にLaunchDarkly(ローンチダークリー)やIntercom(インターコム)などのユニコーンに加えて、2019年に上場したPagerDuty(ペイジャー・デューティ)やアマゾンに買収されたTwitch(ツイッチ)などに投資した。ゴールデンバーグは、インデックスに在籍時にPersona(ペルソナ)やPilot(パイロット)、Plaid(プレイド)などのユニコーンに加えて、先日Stripe(ストライプ)に10億ドル(約1520億円)で買収されたBridge(ブリッジ)に投資した。