この問題を解決するため、ナイキとスポーツを通じ世界中の子供や若者の支援に取り組むローレウス財団は、10月16日から5日間にわたり国内外からトップアスリートやスポーツ指導者を含む約400人を招き、女子のスポーツを取り巻く課題と解決策を考えるイベント「女の子のためにスポーツを変えるウィーク―COACH THE DREAM」を開催した。
ロールモデルに出会えない。日本のコーチ人口の女性割合は20%
何が女子のスポーツ離れを促しているのか。10月18日、虎ノ門ヒルズで行われた「東京サミット」のパネルディスカッションでは、著名な現役アスリートや指導者、スポーツ科学の専門家らが登壇し、日本における女子のスポーツの現状と課題を示した。中京大学大学院スポーツ科学研究科の來田享子教授は、日本で女子のスポーツ参加をはばむ5つの障壁として「ロールモデルの不足」を始め、例えばプレーで失敗したときにコーチから激しい叱責の言葉を投げつけられたりする「人権の尊重・保護の欠如」、「女の子の体と心の変化」「女子にフィットするスポーツ環境の不足」を列挙。なかでも女性コーチや選手といった「ロールモデルの欠如は深刻」だとし、日本で女性コーチの人口は全体の21%で、ハイレベルを指導できるコーチの割合は8%まで下がる現状を指摘した。
さらに、それら全ての根底にあるとして、日本で顕著に見られる「女子はこうあるべき」という「ジェンダー規範」の存在を挙げた。
男女両方のコーチから指導を受けた経験がある読売ジャイアンツ(女子)の田中美羽選手は、「高校時代に自主性を大事にしてくれる女性コーチに教わったことで、自分たちで考えてトライアンドエラーを繰り返し、達成する喜びや面白さを感じる体験ができました。それがあったから、野球を続けてこられました」と自身のスポーツキャリアを振り返った。
キーワードは「ワクワクが最強」
部活動での厳しい指導や体罰が問題化するなか、前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチの恩塚亨は、勝つためにコーチが言ったことを愚直にやることを良しとする日本のスポーツ指導を変えていく必要性について言及。自らが重視する指導理念として「ワクワクが最強」を挙げた。「選手がワクワクしているとクリエイティブになり、努力が努力ではなくなる。選手が勝つために自ら必要なことを考え、実行していくように導いていけるかが大切です。それができたら、選手が自分らしさをもって成長していける、そういうスポーツ界になるのでは」(恩塚)
一方で、恩塚が男性指導者として女性選手から「女子の気持ちをわかっていない」と言われ、接し方に悩んだ経験を語る場面も。そこで女子校のベテラン教員や女性チームを率いる男性リーダーに相談し、恩塚が得た答えは「女子の気持ちはわからない」だったという。これは、決して開き直りではない。
「人の気持ちは天気みたいなもの。女性だからと決めつけるのではなく、目の前の人が今どういう気持ちかを見極め、正直に思いやりをもって接することが大事だと学びました」(恩塚)。
さらに、來田は国内メディアが女子アスリートを取り上げる数が男性アスリートと比べ大幅に少ない現状や、その取り上げ方も結婚などスポーツとは直接関係ない切り口になる傾向があると指摘。すると女子アスリートが直面している壁について、田中が語った。