慣性誘導、ターボジェットエンジン推進のSCALP-EGで最大250km(輸出仕様版の射程)先まで攻撃できるミラージュ2000-5は、ウクライナのロシア側占領地域の目標に対するウクライナ空軍の遠距離打撃能力を高めると見込まれる。
フランスからウクライナに供与されるダッソー社製のこの機敏な戦闘機が空対地攻撃能力を持つことは、初めからわかりきっていたことではない。フランス空軍でミラージュ2000-5は、目標の動きの検出にパルス波に加えドップラー効果を利用するパルス・ドップラー方式のRDYレーダーや、MICA(ミカ)対空ミサイルを搭載し、もっぱら空対空任務に従事している。
台湾空軍もミラージュ2000-5を防空用に配備しており、この戦闘機の優れた急上昇性能などを頼りに、侵入してくる中国機をすばやく迎撃する態勢を整えている。
だが、ウクライナ空軍が目下必要としているのは、防空機以上に攻撃機だと考えられる。ウクライナ空軍は欧州諸国から計85機受け取ることになっているF-16戦闘機についても、少なくとも米国製のJSOW滑空誘導爆弾が届き始めるまで空対空任務に就かせている。
F-16は、ウクライナ空軍が戦前から保有し、空中哨戒などに用いているMiG-29、Su-27両戦闘機を補完する。ミラージュ2000-5のほうは、ウクライナ空軍の現有機では唯一の巡航ミサイル搭載機であるSu-24戦闘爆撃機を補完することになる。
ウクライナ空軍のSu-24の在庫が尽きつつあるわけではない。たしかに、ロシアがウクライナに対する戦争を拡大した2022年2月時点では、ウクライナ空軍唯一のSu-24運用部隊である第7戦術航空旅団の飛行可能なSu-24は、たった十数機だった。そしてこれまでに、攻撃機タイプのSu-24は18機撃破されている。