宇宙

2024.10.25 10:30

民間人初の宇宙遊泳に成功した41歳の起業家が語る「完璧な世界」

スペースXの「ポラリス・ドーン」のクルーとジャレッド・アイザックマン(中央右)Getty Images

今年9月に民間人として世界初の宇宙遊泳に成功したのが、決済システム企業Shift4 Payments(シフト・フォー・ペイメンツ)の創業者で推定保有資産が15億ドル(約2300億円)のジャレッド・アイザックマン(41)だ。

米国時間9月10日に打ち上げが行われたスペースXの「ポラリス・ドーン」ミッションに参加した彼は、1972年のNASAのアポロ17号以降で、人類が到達した最も高い地球軌道である1400キロ上空に到達した。このミッションでアイザックマンは、スペースXのエンジニアのサラ・ギリスと共に民間人として初めての宇宙遊泳を行った。

「事前にすべてのステップを頭の中で描いていて、シミュレーターで何度もその動作を練習していたが、実際の感覚とは違っていた。とても寒くなって、アドレナリンが出て、宇宙服は加圧されると非常に硬くなるので、物理的な負荷もかかる。そして、地球をあんな風に見ることが出来て、完全に圧倒された」と、彼は船外活動の模様を振り返った。

アイザックマンの宇宙遊泳は約90分で終了したが、彼とクルーメンバーたちは、このミッションのために約2年半をかけて訓練を行い、その3分の2は月の半分を費やし、残りはほぼフルタイムで準備を行った。

「地球とは反対側の何もない宇宙空間を見たときに、想像していたのとは違う感覚があった。歓迎されているような平和な感じではない」とアイザックマンは言う。「人類は、そのような過酷な環境で生き残れるようには進化していない。でも宇宙には多くの可能性があり、探検したいなら、しっかり準備して努力しなければならないと思った」

ポラリス・ドーンはアイザックマンにとって2回目の宇宙ミッションだった。最初は2021年9月の「インスピレーション4」という、民間人のみの初の宇宙ミッションで、2億ドル(約300億円)前後と報じられた費用はすべて彼が負担したとされる。このミッションは、小児がんを多く手がけるセントジュード小児研究病院への寄付イベントを兼ねており、2億5000万ドル(約380億円)以上を集めたが、そのうちの1億2500万ドル(約190億円)はアイザックマンの寄付だった。

宇宙でのバイオリン演奏

今回のポラリス・ドーンのミッションで、アイザックマンが最も感動した瞬間は、共に宇宙遊泳を行ったギリスが宇宙船の中でバイオリンを演奏したときのことだったという。ギリスはクラシックの訓練を受けたバイオリニストで、彼女が演奏した映画『スター・ウォーズ』の『レイのテーマ』は、世界中のオーケストラの演奏とリアルタイムで同期され、スターリンクを通じてストリーミングされた。

「あれは実に感動的な瞬間だった」とアイザックマンは言う。


一方、最も恐ろしい瞬間は大気圏への再突入のときだった。「それは、打ち上げの時とは全く違う気分で、自分は完全に無力だと思いながら帰るしかない。非常にリスクが高い環境にいて、致命的な一撃を受けたらそれで全てが終わりだという恐怖を感じた。身体が慣れていない状態で強い重力にさらされて、まるで胸の上に象が乗っているような気分だった。そして着水は、車の接触事故のような感じだった」
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編集=上田裕資

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