ビジネス

2024.10.27 10:00

サプライチェーン先進企業20、持続可能な調達で未来を創造する

2024年10月24日発売の「Forbes JAPAN」12月号では、「新・いい会社100」特集と題して、全上場企業対象、独自調査・分析で作成した、「ステークホルダー資本主義ランキング」「自然資本ランキング」「脱炭素経営ランキング」「サプライチェーンランキング」「リスキリングランキング」などを紹介している。それぞれのランキング上位企業、計8社のCEOインタビューや早稲田大学商学部教授のスズキトモ氏、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏らのインタビューコラム等も掲載している。

サプライチェーン・マネジメントは企業活動の命綱である。環境、人権、地政学リスク。さまざまな課題に対処しながら強靭な供給網を構築する。その手本となる企業20社を、具体的な取り組みとともに紹介しよう。



脱炭素の推進に自然環境の保全、人権の保護、地政学リスクの回避。サプライチェーンに関するさまざまな課題が浮上するなか、企業経営者にとってサプライチェーン・マネジメントは自社の行方を左右する重要な経営課題だ。単独でビジネスを展開できる企業は存在しない。ともにビジネスを活性化しながら、地球や社会の未来にも貢献していく。世界各地に存在するサプライヤーを積極的に育成・支援し共存共栄を目指す「サプライヤー・デベロップメント」(SD)に取り組んでこそ、今の時代の「いい会社」だ。

では、現時点でサプライチェーンのマネジメント力に長けている企業はどこか。この問いの解を探るために、東証プライム上場企業1644社のサプライチェーン関連の情報を収集・分析し「サプライチェーンランキング」を作成した。スコアの算出に当たっては、外部の評価機関によるサプライチェーン・マネジメントに対する評価や調達先に対する監査・評価の状況など、計10指標を用いた。なお、「売上原価率の数字が高いほどサプライチェーンに還元していると読み解ける」(サステナブル・ラボCEOの平瀬錬司)との考えに基づき、売上原価率(100%ー売上総利益率)も分析指標に含めた。ここでは上位20社によるサプライチェーン関連の取り組みなどをまとめた。お手本企業の事例をぜひ、取引先との強靭な関係性の構築に生かしてほしい。

ランキング算出方法

調査対象は東証プライム市場の1644社(2024年7月末時点)。主に23年度の企業の開示データを基にサステナブル・ラボが解析。スコアの算出には「サプライチェーン外部評価」「調達先の監査・評価」など計10指標を用いた。業種ごとの相対評価で指標スコア(偏差値)を算出したのち、各指標に対してテーマや業種のマテリアリティを基に重み付けを行い、最終スコアを算出した。なお、小数点第3位以下の数値が大きい企業を上位とした。

サプライチェーンランキング

1|三井不動産

スコア|71.04

「街づくりのプラットフォーマー」としてサプライチェーン内のあらゆる企業に働きかけ、GHG(温室効果ガス)排出量の「見える化」に取り組む。2024年3月期の連結決算売上高は2兆3832億円(前年比5.0%増)。営業利益は3396億円(同11.2%増)、純利益は2246億円(同14.0%増)。

評価ポイント|GHGのグループ排出量全体の約90%をScope3が占めるため、サプライチェーン全体で脱炭素化をめざす。排出量が特に多い建設時のGHGについては排出量算出マニュアルを策定し、不動産協会のマニュアルとして公表。着工物件に排出量算出を義務化し、業界全体での排出削減をけん引する取り組みなどが高評価。

2|日本たばこ産業

スコア|66.98

製造拠点や葉たばこの調達ルートと物流の最適化に加え、サプライヤーとの連携強化や製品ポートフォリオの最適化を通じて競争力強化を目指す。2023年12月期の連結決算売上高は2兆8410億円(前年比6.9%増)。営業利益は6724億円(同2.9%増)、純利益は4822億円(同8.9%増)。

評価ポイント|2023年末までに、同社に葉たばこを供給するサプライヤーの99%が耕作労働規範の実施状況を報告した。児童労働撲滅のためのプログラムも規定。安全な労働環境の提供や、労働者に対する公正な処遇や労働時間の規定、強制労働の禁止などに関する高い水準をサプライヤーに求める取り組みなどがスコアに好影響。

3|トヨタ自動車

スコア|66.54

2009年に「仕入先CSRガイドライン」を作成・展開し、サプライヤーとともに取り組んできた。2024年3月期の連結決算売上高は45兆953億円(前年比21.4%増)。営業利益は5兆3529億円(同96.4%増)、純利益は4兆9449億円(同101.7%増)。

評価ポイント|同社のサプライチェーン企業は約4万社にのぼり、サプライチェーン企業で発生する総取引額は約20兆円(推計)。天然ゴムの生産地における森林破壊やサプライチェーン上の社会問題、生物多様性への影響などが懸念されるなか、GPSNR(持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム)に参加し取り組みを進める。

4|リコー

スコア|65.83

サプライチェーン機能統括部を新設。ESG要求事項への取り組みが不十分なサプライヤーとは取引解消の可能性も明言。24年3月期の連結決算売上高は2兆3489億円(前年比10.1%増)。営業利益620億円(同21.2%減)、純利益441億円(同18.7%減)。

5|東京エレクトロン

スコア|65.01

複雑な半導体製造サプライチェーンをマネジメントしつつ、サプライヤーや顧客に脱炭素への働きかけを強化。2024年3月期の連結決算売上高は1兆8305億円(前年比17.1%減)。営業利益は4562億円(同26.1%減)、純利益は3639億円(同22.8%減)。

6|小松製作所

スコア|63.60

調達本部による集中購買制度を採用し、CSR調達を担うスタッフ育成のための教育を実施。2024年3月期の連結決算売上高は3兆8651億円(前年比9.1%増)。営業利益は6071億円(同23.7%増)、純利益は3934億円(同20.5%増)

7|富士フイルムホールディングス

スコア|63.57

グローバルで約5500社の一次調達先と生産資材の取引を行う。現地からの調達を積極的に推進している。2024年3月期の連結決算売上高は2兆9609億円(前年比3.6%増)。営業利益は2767億円(同1.3%増)、純利益は2435億円(同11.0%増)。

8|アドバンテスト

スコア|63.51

主要取引先に占める再生可能エネルギー導入率をKPIのひとつに設定するなど、再生可能エネルギーの利用を促進。2024年3月期の連結決算売上高は4865億円(前年比13.2%減)。営業利益は816億円(同51.3%減)、純利益は622億円(同52.2%減)。

9|明治ホールディングス

スコア|63.50

カカオ生産が抱える課題解決に注力。生産地に出向き、技術支援や農家の生活向上、地域の環境保全・回復などに注力。2024年3月期の連結決算売上高は1兆1054億円(前年比4.1%増)。営業利益は843億円(同11.8%増)、純利益は506億円(同27.0%減)。

10|オリエンタルランド

スコア|60.52

2024年に「OLCグループお取引先行動指針」を改定し、人権や環境、原材料調達などを見直した。24年3月期の連結決算売上高は6184億円(前年比28.0%増)。営業利益は1654億円(同48.8%増)、純利益は1202億円(同48.9%増)。
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編集=瀬戸久美子 解析=サステナブル・ラボ イラストレーション=アンドレア・マンザッティ

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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