1981年にフランスで設立されたエノキアン協会は、200年以上の歴史をもつ家族経営の企業のみが加盟する国際組織。創業200年超というハードルに加え、創業者の子孫が多数株主であり、健全な財務状況であるなどの条件もあって加盟企業は限られ、現在は欧州を中心に10カ国、56企業がメンバーとなっている。アジアでは、世界でもっとも長寿企業が多い国として有名な日本からのみ、10企業が名を連ねる。
「家族経営のビジネスが多国籍企業に代わる選択肢であることを広めること」を目指す協会ではあるが、その活動は穏やかで、例えば年次総会も、多少の組織的なアジェンダもあるが、主には各国に散らばるメンバーが集い、開催地の歴史や文化を巡りながら交流する場となっている。
30社弱、約80名の会員(と家族)が参加した今回、初日のディナーでは、再会を喜んだり、子どもの成長に驚いたりといった和やかな空気が流れていた。1610年創業のフランスの刃物企業H. Beligné et Filsの当代夫妻は、「エノキアン協会という大きなファミリーの集いのような感じ」と話していた。
創業の地に本店を構える中川政七商店のアーカイブギャラリーや茶道具の「茶筅」づくりのデモンストレーションを見学したり、東大寺を拝観したり、京都に足を伸ばして月桂冠の酒蔵を訪れたり。そうして数日を過ごすなかで、互いの事業や文化への理解が深まり、それがビジネスのヒントや人脈、協業につながることもあるが、「それが会の目的とはなっていない」とホストを務めた中川政七商店会長の中川は言う。
会の目的は「会社をいかに長く続けるか」ではない。会期中に発表された「レオナルド・ダ・ヴィンチ賞」の授賞式こそ、この会の本質的な目的があり、長寿企業の精神を反映するものだった。
同賞は、協会メンバーであり、ダ・ヴィンチが最後に定住した城「シャトー・デュ・ クロ・ルセ」と協会が共催するもので、「ダ・ヴィンチが弟子たちに行ったように、知識を受け継ぐ伝統に則った賞」として、2011年に発足。2世代以上続く家族経営のロールモデルとなる企業を表彰している。
イタリアのブランド、サルヴァトーレ・フェラガモが初代の栄誉に輝き、2014年には貝印が受賞。そして今年、日本企業では2社目として竹中工務店が受賞した。
竹中工務店の創業は1610年。神社仏閣の造営を業として代々受け継がれ、1899年に14代目が会社として設立。「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念のもと、東京タワー、日本武道館、東京ドームなど、日本の象徴的な建物を数多く手がける一方、世界展開も幅広く、2023年に「TAKENAKA EUROPE」は50周年を迎えた。