同シリーズの山田洋次監督は、東洋経済の取材に答えて「あらゆる既成の価値観を無視しているというか、秩序や道徳観に一切しばられていない。ある意味めちゃくちゃで、身近にいる人にとっては、はた迷惑なんだけれど、観ていて清々しい」と話す。
その山田監督が2024年10月12日、「ちひろ美術館・東京」に姿を見せた(山田監督は「公益財団法人いわさきちひろ記念事業団」理事長も務める)。
同美術館ではこの日から「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ みんな なかまよ」展が開幕(絵本画家・いわさきちひろ没後50年の今年1年間、「あそび」「自然」「平和」の3つのテーマで、現代の科学の視点も交えてちひろの絵を読み解く、というもの)、記念して催された内覧会を訪れたのである。
「ちひろ美術館」のSNS投稿には以下のようにある。
谷川俊太郎の詩「ひとりひとり」から平和について考える展示を見た後、「ひとりひとり」の続きを考えて書くワークショップに取り組みました。山田さんは、心のなかにいる寅次郎のことばを代筆して、次のように語りました。
僕が車寅次郎に代わって読み上げましょう。
寅さんのへたくそな字でかいてあります。
ひとりひとり みんなちがうけど ひとりひとり どれもいい女! 車寅次郎 拝
こちらのワークシートは、ちひろ美術館・東京の展示室2にてご覧いただけます。
寅さんのことばを、ぜひ探してみてください。
同展では京都大学総合博物館准教授、塩瀬隆之氏が企画協力を務めているが、塩瀬氏は内覧会当日のスピーチで以下のように話した。
「私たちはそんなに簡単に一緒になれるわけではないし、歴史もあるし、諍(いさか)いもあるし、でもそれらを飲み込んででもちゃんと隣にいる。ということが平和に向かう大事な一歩だと思うのです。(中略)誰と組んでもうまくいく。もしかするとこの、『誰とでもうまく組み合わさる力』こそが、これから私たちが誰とでも仲良くするための力になるんじゃないか」
[ちなみに、このスピーチを聞いた山田洋次監督は、会でぜひスピーチをとの要請に「塩瀬さんの挨拶に感動した。その後に喋ることは何にもない」と語った(塩瀬氏のスピーチの全文はこちら)]
寅さんは「秩序や道徳観に一切しばられない、ある意味めちゃくちゃ」(山田監督)なのに、気がつけば身近にいる誰とでも「組み合わさってしまう」、塩瀬氏によれば「仲良くなる力」の持ち主である。さらに、長い旅から予告もなくふるさと柴又に帰ってきては周囲をさんざん振り回し、毎回美女と出会って恋をし、失恋してはまた、行き先も告げずふらっと旅ガラスに——。
そんな「めちゃくちゃ」さ、破天荒さと「組み合わさる」力の共存に、現代の若者たちも惹きつけられるのかもしれない。
「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ みんな なかまよ」展は、2024年10月12日~2025年1月31日、「ちひろ美術館・東京」で開催される。