「安い」ことは本当にいいことなのか?

「付加価値」をいかに生み出すか? 

藤吉:そうなると日本企業の側も、企業価値を上げて、買収からの防衛ということを考えなきゃいけなくなりますね。

阿部:消費者の方だけを見ていると、足元をすくわれかねません。消費者のために安くする、というと誠意があるように響くんだけど、それだけを追及してしまうと、その企業が本来得るはずの利益を得られないことになる。やっぱり経営者として「付加価値」をいかに作り出すかという方向にシフトしていく必要があると思います。

藤吉:そう考えるとユニクロというのは、新しい業態を作りましたよね。最初は値段が注目されましたが、ユニクロは別に「安い服を提供しよう」という発想ではやってない。

阿部:そうそう。あくまで、いいものを適正な値段で売る。創業当時は「日本の服が高すぎる、自分たちなら、もっといいものをもっと安く作れる」というモデルを作り、時代の流れを読んで、今はそこに付加価値をいかに乗せていくかということを考えてますよね。

やっぱりそこが切り替えられないと、時代に取り残されてしまう。それで僕が思い出すのは、ダイエーの中内功さんのことなんです。

藤吉:まさに「価格破壊」の代名詞みたいな人ですよね。

阿部:当時の価格支配権は生産者、製造業側にあったんですよ。そこでダイエーは、多店舗化によって販売力をつけて、売る効率性を上げることで価格を下げたんです。

その結果、製造業から小売に価格の決定権を移行させたわけです。これは一種の「革命」でした。

藤吉:ただデフレもあいまって、価格競争の消耗戦に突入していってしまいましたよね。

阿部:そうなんです。で、2002年、いよいよ苦しいとなったときに、中内さんが僕のところを訪ねてきて、ウチの会議室で会ったことがあるんです。

藤吉:そうだったんですか。

阿部:用件は、彼の部下としてずっとやってきた人の会社があって、そこの業容が苦しいから、「何か妙案はありませんか?」というお話でした。僕自身は、その部下という人とも面識もなかったので、あまりいいお返事ができなかったのです。申し訳ない思いで中内さんをお見送りしたことが忘れられないですね。

藤吉:一時代を築いた人だけに、聞いているだけで胸に迫るものがあります。今日はモノの値段という身近なテーマを通じて、思いがけず日本経済の激動の30年史を振り返ったような気がします。ありがとうございました。

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

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