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「安い」ことは本当にいいことなのか?

日本企業がアメリカに買われてしまう

阿部:「安いことはいいことか」という話に戻ると、安すぎると「負の循環連鎖」から抜け出せないのが問題なんです。つまり日本人は2000兆円も個人金融資産を持っていて、金持ちのはずなんだけど、それが銀行の口座に眠っている限り、物価も賃金も株もずっと安いままになってしまう恐れがある。

投資家としての目で見たとき、僕が一番「安すぎる」と思うのは日本の株価なんです。このままだと日本の企業は全部アメリカに買われちゃいますよ、ということを日本人は真剣に考えた方がいい。

藤吉:実際に「セブン&アイ ホールディングス」がカナダのコンビニ大手から買収提案を受ける時代になりました。

阿部:僕らはずっと「日本の株価はグローバル相対で割安になっている。企業価値を上げて防衛策を講じる必要がある」と主張してきましたが、セブン&アイのケースはその実例ですよね。

日本国内には買収費用としてポンと6兆円出せるところはないけれど、世界はもうそんなレベルじゃない。価値があると判断したら100兆円だって買うようなところがゴロゴロしている。そして彼らは長いデフレのトンネルから抜け出して、価格の上昇局面に入った日本の市場を狙っているんです。

藤吉:それは安いからですか?

阿部:やっぱり世界の投資家は、「歪み」が投資の対象になるという原理原則をよく知っているんですね。長い間、安いままで放置されてきたものは、いずれ適正な価格に戻る、と。

これはジョージ・ソロスの口癖でもあったんだけど(笑)。とにかく海外の投資家はそろそろ日本が適正に戻るターンに入るんじゃないか、と考えるわけです。

一方で彼らの多くはこれまでアメリカ株から莫大なリターンを得てきました。過去30年のアメリカ株の平均リターンは驚異の8.7%です。これが30年続いてきて、今、さすがに“頭打ち”になりつつある。そこで新たな投資先を探している彼らが日本に注目している面もあります。この30年の日本株の平均リターンはわずか2.7%ですから、これから上がっていく余地が十分にあると見ているわけです。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

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