「安い」ことは本当にいいことなのか?

「値上げ」を知らない世代

阿部:昔からよく知っている会社なので、今回はサイゼリヤを例に出しましたが、デフレが長く続いた日本においては、どの企業も程度の差こそあれ「安けりゃ安いほどいい」という「教義」の影響を受けていると思います。
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藤吉:値上げによる消費者の反発を恐れるようになっちゃったんですね。実際に今回のコメの値上げでは、メディアも含めて大騒ぎになってしまった。

スーパーなんかは価格破壊競争の最前線に立ち続けて、それは現在も続いていると思うんですが、要は価格決定者が今は小売になってますよね。で、小売の人たちは「(価格は)消費者が決めている」と言うんですけど、これを続けているといずれ生産者がいなくなっちゃうな、という気がするんです。

阿部:そうですね。このままでは、いずれ立ち行かなくなる。ですから、ここから先は、この30年日本がやってこなかったこと、つまりちゃんと「モノの値段を上げる」ことをやっていかないといけない。
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考えてみれば、今の50代、60代の経営者ってデフレの時代しか知らないんですよね。今から約35年前、彼らが新入社員だったときにバブルが崩壊して、そのまま長いデフレのトンネルに入ってしまったんで、彼らは「値段を上げる」という思考とか動作を身につける機会がなかった。

藤吉:それは面白い視点ですね。

阿部:消費者も値上げがない状態に慣らされてきたから、何かがちょっとでも値上がりすると、ニュースにお買い物をしているシニア世代の方達へのインタビューが出てきて「これでは生活できない。明日から節約です」なんて言うんだけど(笑)、実際には、あの世代は貯蓄志向がものすごく強い世代なんです。

だって日本における個人の金融資産って今、2200兆円くらいあるんです。これはアメリカの約7000兆円に次ぐ数字ですよ。

出所:日本銀行、連邦準備制度理事会、スパークス・アセット・マネジメント

出所:日本銀行、連邦準備制度理事会、スパークス・アセット・マネジメント



藤吉:多少、モノが値上がりしたって買えるくらいには、お金がある。

阿部:しかも金融資産の内訳をみると、アメリカは半分以上が株ですが、日本の場合は半分以上がキャッシュなんです。デフレ時代はキャッシュで持っているのが一番リスクが少なかったから。

よく海外の投資家は「日本人は市場の動きに鈍感だ」と言うんだけど、僕は「それは違うよ!日本人は一番賢い選択をしたじゃないか」と反論するんです。

これは僕の持論でもあるんだけど、マス(大衆)を形成する個人は長期的には常に賢明な判断をするんです。実際、これからインフレになってくると、日本人が持っている2200兆円のキャッシュがモノを言うわけです。

そのうちの10%が動くだけでも200兆円です。日本の上場企業の株式の時価総額を全部合わせても1000兆円ですから、この個人資産がいかに大きな数字かわかると思います。これは今後の日本経済を動かす原動力になる。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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