災害支援のプラットフォームへ 目指す「国民全体のコレクティブインパクト」
ピースウィンズ・ジャパン|大西健丞
2024年1月1日、石川県能登半島で能登半島地震が発生──。当日、大西健丞が代表理事を務めるピースウィンズ・ジャパンが運営する、災害緊急支援プロジェクト「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」の緊急支援チームが石川県珠洲市に向けて出動。同チームは、医師・看護師やレスキュー隊員、救助犬など総勢19人で結成され、捜索救助チームと医療チームに分かれて支援活動を開始。第1陣が陸路で現地に向かい、翌早朝には第2陣としてヘリコプター2機が出動。その後、物資支援の推進のため災害医療支援船も出動した。
「車両(陸路)に加え、ヘリコプター(空路)、船舶(海路)を網羅した『三次元の機動的支援』を届けた。初動の早さは私たちの強みだ。国や自治体、自衛隊など公的機関が担うイメージが強い災害支援において、柔軟性、迅速性、専門性をもって公的支援と肩を並べる民間支援団体の役割は大きい」と大西は話す。
空飛ぶ捜索医療団は東日本大震災以降、ほぼすべての国内大災害に出動してきた。「一秒でも早く、ひとりでも多くの命を救う」が使命だ。現場では、自治体、病院、NPO、企業、自衛隊・消防などと連携し、発災直後の救助・救命活動から物資配布や避難所の運営、中・長期的な復興のサポートまで行ってきた。800人の登録隊員もいる。同年9月、震災復興半ばで起こった能登での豪雨災害時にも、1月から継続してきた避難所支援やコミュニティ支援とともに、物資や水の緊急支援を行った。「1000社以上の企業が物資・ロジスティック・資金を提供してくださっているので、医療に加え、水や燃料、衣服、食事、段ボールベッドまで用意できる」(大西)
23年には、大規模災害への備えとして、3500トン級のヘリパッド付きの災害医療支援船「Power of Change」の本格導入を開始。「首都圏直下地震が発生すると、医療スタッフが病院にたどり着くことが難しく『病院の機能不全』が起き、6500人が未治療死に陥ると推計されている。大規模地震では陸路が寸断されるため、空と海の活用が災害対応の肝になる。より多くの人々をより迅速に救援するために、より洗練されたプラットフォームを構築することが空飛ぶ捜索医療団の目標だ」
ピースウィンズ・ジャパンは、大西が1996年に立ち上げた日本発の国際協力NGOだ。海外人道支援事業、災害緊急支援事業、犬や猫の殺処分ゼロを目指した動物の保護・譲渡活動であるピースワンコ事業、地域再生事業の4つの事業活動を行う「ソーシャルイノベーション・プラットフォーム」と位置付けている。大西が同団体設立以降、問い続けているのは「公益を誰が担うのか」ということだ。その答えは、空飛ぶ捜索医療団の未来について語る大西の次の言葉にあるのかもしれない。「我々がプラットフォームとなり、官民、業界を問わず、国民全体でコレクティブインパクトを起こし、災害支援にイノベーションを起こしたい」