大阪での主な内容は、大阪市内中心部でのアート作品展示、サマーソニック大阪会場及び周辺でのアート作品展示、そしてカンファレンス・ネットワーキングイベントの開催であった。
この大阪でのイベントの土台には、2023年7月に、インバウンドやものづくり、地方創生といった経済活動において文化の力を活用する「文化芸術立国」を目指して締結された、「文化庁・関西広域連合・関西経済連合会・文化庁連携プラットフォーム共同宣言」がある。
そしてもうひとつ思い出したいのが、やはり2023年の7月、「経済産業省史上初」と銘打って公開された経済産業省「アートと経済社会について考える研究会 報告書」だ。そもそも文化芸術と経済の協働は難しい面があった。その一つの要因として、時間の感覚の齟齬がある。
たとえば筆者が身を置く美術の世界で追求される価値は、基本的には数十年から数百年といった単位で築かれていく。いっぽう、経済界では数カ月から数年という単位でものごとを見るのが普通だろう。この齟齬を乗り越えようと国家レベルの後押しが行われる背景には、「経済社会の成熟化・グローバル化・デジタル化・価値観の多様化に伴い企業や国・地域は、コストや機能だけでは差別化が困難な時代に本格的に突入している」(上記報告書の趣旨冒頭)という認識がある。そして、文化芸術サイドでは、公的資金による施策だけでは足りない部分を経済活動との重なりに見出していきたい思いがある。
いつもと違う場所でアートに触れる
「MUSIC LOVES ART 2024 – MICUSRAT」の大阪市内展示では、全10作家の作品が設置された。いくつか紹介しよう。漢字を素材とした絵画に取り組む大谷陽一郎が、プロジェクトテーマ「はんえい」に合わせた新作を制作。「版」、「反」、「栄」、「映」など、その音を表す多様な漢字を配し水紋のような形を浮かび上がらせた絵画を、中之島フェスティバルタワー・ウエスト3階オフィスエントランスホール、関西電力本展2階ロビースペース、ダイビル本館2階屋外スペースに展示した。
檜皮一彦は、中之島フェスティバルタワー地下1階の、もともとスーパーマーケットだったスペースに大型インスタレーションを制作した。車椅子の形をした大量の造形と、飛び交うネオンライト、そして、作家自身とおぼしき人物のいる空間の3Dスキャン映像が組み合わさったもので、ポップで楽しげな第一印象に対し、車椅子ユーザーである作家の感覚を反映するような、移動の難しさや閉塞感を表現した内容であった。