ワールドは当初、ユニバーサル・ベーシックインカムの提供を目指し、Orb(オーブ)と呼ばれるバスケットボールほどの大きさの専用リーダーを使って虹彩データを収集し、その引き換えにWLD(ワールド)と呼ばれるコインを配布していた。しかし、アルトマンが設立したOpenAIのChatGPTに端を発した生成AIブーム以降、ワールドコインの親会社であるTools For Humanity(ツールズ・フォー・ヒューマニティ)は、人間と人工知能(AI)を区別するためのID認証に注力するようになった。
オーブで虹彩をスキャンすると「ワールドID」が発行され、ワールドのシステム内で人間であることが証明できるようになる。この方法であれば、人々は他の識別情報を提供することなく、自分がボットでないことを証明できる。
「ワールドコインという名前はもう通用しない」と、CEO(最高経営責任者)のアレックス・ブラニアは17日にサンフランシスコで開催されたイベントで語った。一方、アルトマンは生まれ変わったワールドについて、「人間とエージェントがリソースを相互に送り合い、コミュニケーションを図ることを支援するAIのインフラレイヤーだ」と述べた。
フォーブスは昨年、ワールドが事業を定義することに苦慮していると報じたが、今回のブランド名の変更はその課題を浮き彫りにしている。「方向性はまだ完全に定まっていない。それは難しく、まだ新しいことであるため、問題はないと考えている。いろいろな選択肢があるが、社内で方向性が決まり、人々の共感が得られれば、一気に火がつくだろう」とアルトマンは2022年5月に行われた全社サミットで語っていた。
会社の新たなDNA
ワールドコインの元従業員は昨年、「会社にとっての新しいDNAは、間違いなくIDだと言える。彼らは、もはや自社を暗号資産の企業だとは言っていない」と述べていた。同社の社名から「コイン」という単語が消えることになったタイミングは、暗号資産の大手取引所FTXの不祥事でこの市場が初期の輝きの一部を失った時期とも重なった。17日のイベントでは、オーブが従来のメタリッククロームから白いコーティングを施したものに変更になったことなど、他にもいくつかの発表があった。ワールドの最高デバイス責任者であるリッチ・ヒーリーは、ラテンアメリカの配達サービスのRappi(ラッピ)との提携を通じたオーブへのアクセスを容易にする施策や、世界中のコーヒーショップやコンビニエンスストアなどにオーブを設置する取り組みなどについて発表した。