未上場株を組み込める投資信託の「ひふみクロスオーバーpro」をローンチした、レオス・キャピタルワークスの代表でファンドマネジャーの藤野英人と、タイミー代表取締役の小川嶺が語り合った。
藤野英人(以下、藤野):小川さんと初めて会ったのは、このオフィスでしたね。「有望な若手起業家がいる」と紹介されて、当時大学生だった小川さんのプレゼンテーションを聞いたとき、「なぜ自分はこのビジネスに気づかなかったのだろう」と、とても“嫉妬”したことを覚えています。
あれから時が経ち、タイミーは今年7月26日に、東証グロース市場に新規上場されました。上場を経験して、どんな変化を感じますか。
小川嶺(以下、小川):「東証が認めた会社」として上場できたことで、ポジションがひとつ上がったと強く感じます。自治体や大手企業との連携もしやすくなりましたし、私たちがゼロから作ってきたスポットワークのマーケットが、上場によって広く認められた実感があります。
もともとは2年ほど前に、“最年少上場”を目指して準備していました。ただ、直前になって「会社を本質的に成長させることが優先ではないか」と、上場を延期しました。この2年間で売上を10倍にできたので、あのときの判断は間違っていなかったと思っています。藤野さんにも、いろいろとご相談させていただきましたね。
藤野:タイミーが他のスタートアップと違い、上場後に資金調達に苦戦するようないわゆる「第二の死の谷」に陥らないのは、上場を延期したことが大きいです。結果的に、1000億円以上の時価総額がつき、株価が大きく上昇したわけですから。
タイミーが市場に評価されているポイントは数多くありますが、特に「がんばっている人や企業が評価される社会」を作ろうとしている点が、とても重要だと考えています。
タイミーには、働き手と企業が相互に評価し合う仕組みがあり、そこから生まれた信用スコアが、デジタル上に蓄積され可視化される。そこに、「良い企業が切磋琢磨して良い社会を作る」という哲学を感じるんです。
小川:おっしゃる通り、私たちは創業当時から、「コツコツがんばっている人が報われる」という、当たり前の世界をデジタルの力で実現したいと考えてきました。
今年2月にスタートした「タイミーキャリアプラス」でも、アルバイトをがんばった先に正社員を目指せる、というプロセスを設計しています。「はたらく」を再定義して、働き手が取り得る選択肢を広げていくことが、タイミーがやるべきことであり、バリューであると認識しています。
藤野:近年、多くの企業がスキマバイトに参入しています。もちろん、タイミーも競合として、なんらかの影響を受けるでしょう。ですが、こうした哲学や世界観を持っているか否かで、最終的に大きな差が生まれるのではないかと思っています。
7割の運を引き寄せる3割の実力と人の縁
藤野:起業家には、「穴を見つける」と「穴を埋める」の2つの能力が必要だと、私は思います。前者は社会課題を発見する能力で、後者は社会課題を解決する能力。小川さんがこの双方を兼ね備えていると感じたのは、コロナ禍が始まった頃でした。当時、飲食業界のスキマバイトの需要がなくなり、売上がほぼゼロになった時期がありましたよね。でもそこで、タイミーは物流業のバックヤード支援をビジネスの柱に切り替え、1年も経たずに過去最高となる売上を記録するまで回復しました。物流業界大手との交渉や現場のオペレーションなど、穴を埋めるための障壁の高さと、それを乗り越えた姿を見て、「この会社は伸びる」と確信しました。
小川:ありがとうございます。あの時はたまたま、当社の株主に物流に関わる会社が入っていたので、物流企業との橋渡しをお願いできました。あえて、さまざまな業界から株主を募っていたことが、功を奏した形です。運が良かったですね。
以前、サイバーエージェント代表の藤田晋さんから、「成功には、運7割、実力3割」という話をしていただいたことがあります。運の要素が大きいからといって、何もしなくていいわけではありません。実力の3割で何をするかが大事なのだと。あのときも、何手も先を読んで、リスクヘッジを怠らなかったからこそ、運をつかめたのだと思います。
藤野:わかります。場合によっては「実力1割、運9割」と言っても過言ではないです。運が支配している世界だからこそ、自分がやるべき1割から3割のなかで、必死にがんばらなくてはならない。
私は成功しても「運が良かった」と思うようにしているんです。もちろん成功のために十分な準備はしているけれども、運が良かったと思うことで傲慢にならない。しょせんは運だから、明日からも手を緩めずにがんばっていこうと思えます。
逆に失敗しても「運が悪かった」と考えれば、自分を過剰に責めることもない。もちろん必死にがんばることは前提として、最終的には「運」と割り切ることも大事です。
小川:これを理解できているか否かで、経営のアプローチも大きく変わるのではと思います。成功するうえで、実力の割合が少ないと認識しているからこそ、「何をするか」に徹底的にこだわるでしょうし、チャンスと見れば必死でつかみに行くようになるでしょうね。
藤野:「運」には神頼みのような響きがありますが、これは「変数」と言い換えることもできます。ビジネスにはさまざまな変数があります。そこには神がいるわけではなく、ただ確率的な分布があるだけ。その分布に、経営者はどのように向き合うか。それを「運」と呼んでいるだけです。
この確率分布を見極める要素のひとつが「人の縁」でしょう。今の私たちがあるのは、決して1人の力ではなく、多くの方々に支えられてきたおかげです。
先ほど小川さんがおっしゃっていた「株主に物流に関わる会社が入っていた」というお話がまさにそう。幸運も悪運も、ほとんどの場合、人が運んでくるものです。相手が与えてくれた良縁を確実につかむことはもちろん、その人にお返しをしていく気持ちも大切にしたいですね。
「ウェットな未上場」と「ドライな上場」の架け橋になりたい
小川:今回、事前に藤野さんから「ひふみクロスオーバーpro」について伺いました。上場株とあわせて、未上場株も組み入れることができるクロスオーバー投資を行うファンドであると。まさに未上場株の投資こそ、株価がついていない状態で投資先を選ぶわけですから、運の要素が大きいように感じます。では、何が基準になるかといえば、「その企業が打ち出す未来にどれだけワクワクできるか」ではないでしょうか。こんな世界が来るはずという長期ビジョンが描けていて、そのなかで、この企業がどのようなバリューを発揮できるか。その土台がしっかりと築けていなければ、いくら運が良くても意味がないでしょう。
私も、未上場投資を検討する際は「この会社が作ろうとしている未来が好きだな」「この経営者に共感できるな」といった目線で見ていますし、未上場の場合は、夢の部分が占めるウェイトが非常に大きいと思います。上場すると、今度は数字の世界になってしまうのですが。
藤野:まさにそこが、「ひふみクロスオーバーpro」でつなぎとめたい部分です。特に日本の場合は、未上場と上場で担い手が大きく異なるので、世界が大きく変わってしまうのです。
未上場の世界は、経営者を含めた関係者全員が協力して、上場というゴールに向かっていくゲームです。これは割と気持ちがいい世界でもあるんですね。ところが上場した瞬間に、世界は一変します。国内外で5万社以上ある商材からどれを選ぶのかという、システマティックな数字のゲームになる。このウェットとドライの差に、多くの起業家が戸惑い、対応できないという課題がありました。
一方で、海外では既にクロスオーバー投資があり、未上場時から上場後も継続して伴走する株主が少なくありません。起業家に対して、「こういう対話をすればいいよ」と、メンタリングをする経営者や投資家もいる。私たちも、そうした役割を果たしていきたいです。
小川:上場後に投資家の方々をお話しすると、株価の上下には必ず何かしらの理由があり、「そういうところを気にされるのか」と、学びになることも多くあります。
もちろんドライな部分もありますが、投資のプロからのフィードバックは視野を広げるきっかけにもなり、非常に面白さを感じているところです。クロスオーバー投資によって、上場後の世界をより楽しめるスタートアップが増えることを願っています。
ふじの・ひでと◎1966年、富山県生まれ。投資家、ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス代表取締役社長CIO。1990年早稲田大学法学部卒業、野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント等を経て03年に独立、レオス・キャピタルワークスを創業。
おがわ・りょう◎1997年生まれ。2017年、大学2年生のときにアパレル関連事業を立ち上げるも1年で事業転換を決意。18年にスキマバイトアプリ「タイミー」のサービスを開始。「一人ひとりの時間を豊かに」というビジョンのもと様々な業種・職種で手軽に働くことができるプラットフォームを目指す。
投資信託にかかるリスクについて
価格変動リスク:国内外の株式や公社債を実質的な主要投資対象とする場合、⼀般に株式の価格は個々の企業の活動や業績、市場・経済の状況等を反映して変動し、また、公社債の価格は発⾏体の信⽤⼒の変動、市場⾦利の変動等を受けて変動するため、その影響を受け損失を被るリスクがあります。
流動性リスク:有価証券等を売却あるいは取得しようとする際に、市場に⼗分な需要や供給がない場合や取引規制等により⼗分な流動性のもとでの取引が⾏なえない、あるいは不利な条件で取引を強いられたり、または取引が不可能となる場合があります。これにより、当該有価証券等を期待する価格で売却あるいは取得できない可能性があり、この場合、不測の損失を被るリスクがあります。
信用リスク:有価証券等の発行者や有価証券の貸付け等における取引先等の経営・財務状況が悪化した場合またはそれが予想される場合もしくはこれらに関する外部評価の悪化があった場合等に、当該有価証券等の価格が下落することやその価値がなくなること、または利払いや償還金の支払いが滞る等の債務が不履行となるおそれがあります。投資した企業等にこのような重大な危機が生じた場合には、大きな損失が生じるリスクがあります。
為替変動リスク:外貨建資産を組み入れた場合、当該通貨と円との為替変動の影響を受け、損失が生じることがあります。
カントリーリスク(エマージング市場に関わるリスク):当該国・地域の政治・経済情勢や株式を発行している企業の業績、市場の需給等、さまざまな要因を反映して、有価証券等の価格が大きく変動するリスクがあります。エマージング市場(新興国市場)への投資においては、政治・経済的不確実性、決済システム等市場インフラの未発達、情報開示制度や監督当局による法制度の未整備、為替レートの大きな変動、外国への送金規制等の状況によって有価証券等の価格変動が大きくなる場合があります。
未上場株式等への投資に関するリスク:当ファンドは、投資事業有限責任組合を通じて実質的に未上場株式等に投資を行なうため、他の金融商品を組み入れた投資信託と比較して、加えて、主に以下のリスクがあります。これらのリスクにより、基準価額が大きく下落し、損失を被るリスクがあります。
・当ファンドが実質的に投資する未上場株式等は、各銘柄の価格が各企業の個別要因や イベント(デフォルト、上場、M&A等)によって大きく変動し、上場企業の株式とは値動きの方向性や変動率が大きく異なる場合があるため、評価額が大きく変動し、その影響を受け損失を被るリスクがあります。
・当ファンドが実質的に投資する未上場株式等は流動性が著しく乏しいため、売却時に不利な価格での取引をせざるを得なくなるなど、流動性リスクおよび各種リスクの影響が大きくなる可能性があります。
・未上場株式等の評価額については、その時点で入手できる情報に基づいた公正価値の見積りであり、日々の投資信託の基準価額算出においては、影響を受ける可能性のある 重要な事象を完全かつ正確に反映することが困難となります。
したがって、お客様(受益者)の投資元本は保証されているものではなく、基準価額の下落により損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)の「投資リスク」をご覧ください。
「ひふみクロスオーバーpro」にかかる費用について
■お客様に直接的にご負担いただく費用:
購入時手数料:申込金額に対する手数料率は3.30%(税抜3.00%)を上限として、販売会社が定める料率とします。購入時の商品説明または商品情報の提供、投資情報の提供、取引執行等の対価として販売会社にお支払いいただきます。「自動けいぞく投資コース」において、収益分配金を再投資する場合は無手数料です。なお、お取り扱い可能なコースおよびコース名については販売会社によって異なる場合がありますので、販売会社にお問い合わせください。
換金時手数料・信託財産留保額:ありません。
■お客様に間接的にご負担いただく費用:
運用管理費用(信託報酬):信託財産の純資産総額に対して年率1.650%(税抜年率1.500%)を乗じて得た額。信託報酬とは、投資信託の運用・管理にかかる費用のことです。日々計算されて、投資信託の基準価額に反映されます。なお、毎計算期間の最初の6ヵ月終了日および毎計算期末または信託終了のとき「ひふみクロスオーバーpro」の信託財産から支払われます。
その他費用・手数料:組入有価証券の売買の際に発生する売買委託手数料(それにかかる消費税等)、先物取引・オプション取引等に要する費用、外貨建資産の保管等に要する費用、租税、信託事務の処理に要する諸費用、監査法人等に支払うファンドの監査に係る費用(監査費用)およびそれにかかる消費税等、受託会社の立て替えた立替金の利息など。 監査費用は日々計算されて、毎計算期末または信託終了のとき、その他の費用等はその都度ファンドから支払われます。これらの費用は、運用状況等により変動するものであり、予めその金額や上限額、計算方法等を具体的に記載することはできません。
レオス・キャピタルワークス株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第1151号
一般社団法人投資信託協会会員・一般社団法人日本投資顧問業協会会員