2023年1月に中国の紫金山天文台によって初めて発見され、同2月に南アフリカ天文台の小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)により再発見されたこの彗星は、残照の空に一筋、長く輝く尾を引く姿が天文ファンを魅了した。
太陽系には数百万個の彗星があるといわれる。そのうちの1つである紫金山・アトラス彗星は、太陽系の外縁を取り囲む氷微惑星の集まりである「オールトの雲」からやってきた長周期彗星で、軌道周期はなんと約8万年。再び太陽系に戻ってくる日は来ないだろうと予想する天文学者もいる。
紫金山・アトラス彗星が太陽に最も近づく「近日点」に到達したのは9月27日で、太陽との距離は約5800万kmだった。これは水星と太陽の平均距離にほぼ等しい。
近日点到達前には主に南半球で、約1週間にわたり日の出前の東の空に見えていた。この段階では飛びぬけて明るい彗星というわけではなく、観測は困難を極めたが、太陽のまぶしい光の影に入って見えなくなる前にその姿をとらえることに成功した写真家も少なくなかった。
天文ファンにとって幸いなことに、紫金山・アトラス彗星の氷の核は、その長い旅路の中で崩壊の危機に最もさらされる近日点を無事生き延び、2020年7月に到来したネオワイズ彗星よりも明るくなった。
10月12日には地球から約7100万kmの距離まで最接近。日没後の観測がピークを迎えたのはこの前後からで、14日には地球が彗星の軌道面を通過して、彗星本体と長い尾が非常によく見えるようになった。
紫金山・アトラス彗星を写した写真や画像の中でもとりわけユニークなのが、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が共同運用する太陽観測衛星「SOHO(SOlar and Heliospheric Observatory)」が撮影したものだ。
彗星が太陽の光に隠れて地上から見えなかった数日間、地球を周回するSOHOに搭載された広角分光コロナグラフ(LASCO/C3)は、太陽の光球を遮蔽する円盤のおかげで、太陽のすぐ近くを通過する彗星の姿をとらえていた。
10月7日、X2.1の大規模な太陽フレア(電磁放射による極紫外線閃光)と2回のコロナ質量放出(荷電粒子の雲)が観測されたのとほぼ同時に、LASCOの視野に彗星が現れた。この様子をとらえた動画も公開されている。紫金山・アトラス彗星は、SOHOが観測した中で2番目に明るい彗星だという。
さて、1つの彗星が消えゆく中、別の明るい彗星が近づいているとの情報がある。肉眼で見えるほど明るい彗星というのがそもそも貴重なのだが、驚くべきことに、今月中に2つめの目視可能な彗星が出現するかもしれないのだ。
「C/2024 S1(ATLAS)」(アトラス彗星)は10月23日に地球に最接近し、その5日後の28日に近日点を迎える。たぐいまれな明るさになると予想される一方、分裂してほぼ消滅してしまうおそれも指摘されている。どちらに転ぶかは、まだわからない。
(forbes.com 原文)