その日本法人のトップを務める長崎忠雄社長に、AI技術が日本社会にもたらす可能性と課題について詳細に語っていただいた。
導入には慎重、決断すると実装と応用の速さは世界トップクラスの日本
「日本は米国に次いでChatGPTのユーザー数が多い」と長崎社長は冒頭で強調した。OpenAIは2024年4月に日本法人を設立し、日本向けのサポートを強化したが、その背景には日本市場がAI技術に対して高い親和性を持つからだと長崎氏は話す。
加えて日本政府が積極的にAIに対して取り組む姿勢を感じたことも、日本での事業拡大に投資することを決めた理由だ。
「2023年、サム・アルトマンCEOが世界各国の首脳と会談を重ねる中で、日本政府との対話が特に建設的だった」と長崎社長は明かす。AIの社会実装に向けた日本政府の前向きな姿勢が、OpenAIの背中を強く押したのだ。
AI技術に対する懸念は大きい。学習データの扱いや、AIの偏りや誤りなどについて、国としてどのように扱っていくかは重要で、慎重な姿勢を示す国は多い。日本政府はプライバシーや偏りに対する懸念についても示しつつ、一方で社会への実装に積極的な姿勢はOpenAIにとって大きな魅力となった。
さらに、日本市場特有の特徴も重要な要因だという。「日本企業は新技術の導入に慎重ですが、一度決断すると実装と応用の速度は世界トップクラス」と長崎社長は指摘する。この特性は、長崎社長自身がAWS(Amazon Web Services)の日本展開で経験したものでもあった。
当初、クラウドに企業システムを実装していくことに慎重だった日本企業は多かったが、多くの懸念が杞憂であると理解され、利点が浸透すると一気に広がった。理解を得るには時間がかかるが、浸透が始まればそこからの社会への実装速度は速い。
そういった過去の実績が、OpenAIの戦略に大きく影響しているという。
企業、行政、教育、高齢化社会にAIがもたらす変革
OpenAIが提供するAIサービスは、日本社会をどのように変革しうるのか。長崎社長のビジョンは多岐にわたる。まず、企業の生産性向上について、長崎社長は具体例を挙げて「例えば『ブランドマーケティングAI』のような特化型AIを構築することで、企業のガイドラインを効果的に浸透させることができる」と説明する。これは単なる効率化ではなく、組織の一体感を高める新しいアプローチだ。特に人材の流動性が高まる中で、こうしたAIの活用は企業文化の維持と発展に大きく貢献する可能性がある。