第1は、北朝鮮内部で混乱の兆し 相反する国会と軍の動き、迷走する金正恩氏の発言で伝えた通り、体制内部の混乱が原因だ。北朝鮮当局は、市民が韓国のドラマや音楽に親しみ、最終的に韓国に吸収統一されることを望む空気が広がることを懸念している。金正恩氏は昨年末、南北平和統一政策を放棄し、韓国を敵視する政策にかじを切った。ところが、建国以来、平和統一政策を国是としてきたため、北朝鮮内は「組織や人事などで混乱に陥っている」(脱北した元党幹部)という。金正恩氏は最高人民会議(国会)で憲法を改正し、韓国敵視政策を盛り込むよう指示したが、今月開かれた会議では敵視政策を巡る改正の発表が見送られた。軍による15日の爆破は、憲法改正が進まないことへの軍の反発から生まれた行動か、あるいは動揺する市民の視線を外に向けるための措置だった可能性が強い。
そもそも、北朝鮮外務省が11日付で発表した重大声明によれば、無人機が平壌上空でビラを撒いたのは10月3,9,10日だったとされる。重大声明が「天人共に激怒する蛮行」と位置付けるのなら、どうしてすぐに発表しなかったのか、合点がいかない。最高人民会議での迷走が影響しているとみるべきだろう。
一部には「将来の南北対話に向け、交渉ポジションを有利にするための動きではないか」という声も出ているが、その指摘はあたらないだろう。北朝鮮には韓国を「同じ民族」として受け入れるような余裕はもはやない。それは、金与正氏の言葉遣いからもよくわかる。与正氏は談話で韓国政府や韓国軍、脱北者の市民団体について「ごろつき」「くずの群れ」「鉄面皮」「駄犬」などと、口を極めてののしっている。これは韓国に向けて発信しているが、実のところ、「このような連中と付き合うことは許さない」という北朝鮮市民に向けたメッセージだと言える。北朝鮮は連日、金与正氏の談話を労働新聞など国内メディアでも伝えているからだ。複数の関係政府筋も「もはや、北朝鮮が韓国と対話することはないだろう」と指摘している。