「政権移行チーム」を攻略する欧米企業
日鉄買収案の行方は多くの日本企業が見守っている。そのような中、トランプは年初以来二度目となる「日鉄買収案阻止」を8月19日ペンシルバニア州の集会にて訴え、直近では9月29日にも改めて言及している。ただし、1月当初でも聞かれた苛烈な「ただちに阻止」といった言い回しが非現実的である点を多くの専門家は指摘。大統領であっても、外国投資案件を阻止するにはCFIUS判断を待つ必要があり、仮に大統領就任時(2025年1月)に判断がまだ出ていない場合、CFIUS管掌の新財務・商務長官はじめ閣僚が米議会で承認され出揃うのをさらに待つこととなる。すなわち、トランプ候補が投票日まで引き続き買収案阻止を訴えながらも、それは口先だけであり、実際は当選後CFIUS判断によっては安保上の追加条件を付記することで承認する可能性もまだ充分あると考える。今、実利を狙う欧米企業は、両陣営の「政権移行チーム」攻略に集中している。
激戦区に於いて何票差で勝敗が決まるかの足し算は、不退転の事業や商売を維持継続する上ではどうでもよい話であり、どちらに転ぼうが重要ポストに就く人間を早い頃から接触開始するのが常套手段だ。いつまでも受け身な日本政府や民間企業はなるべくして毎回出遅れる。
9月にCFIUS再ファイリングが許可されたことにより(結果、審査判断期日が大統領選後に延長される)、連日の阻止論調はひとまず落ち着いた状況になった上、USWによる仲裁申し立て(USS労働協約違反嫌疑)が不発に終わる朗報も加わり、日鉄陣営はおそらく束の間の勝利を喜んでいると思われる。ただ、これは何か特別なことを日鉄・USスチールが勝ち取ったわけではなく、通常通りのプロセスを約束されただけであり、期限が延長されたとは言え大統領府の影響下、CFIUS判断を早めることも可能であり、同じ問題(早期阻止リスク)はそのまま残っている。
日鉄が次期政権陣容を決める「政権移行チーム」の中枢に近づいている情報は未だ得られていない。
相変わらずトランプの側近グループより外れているポンペオに接近したり、ロビイを介して一民間企業の課題から、さらに格上げした外交・通商問題にしようと動いているように窺えるが、日本政府と経産省には昔のような米国政治を動かすだけの迫力も無く、頼れないのであれば、何をすべきか?
日鉄社内ではカリスマとされる橋本英二会長のレガシーのためだけでなく、本案件が日米同米に及ぼす影響や将来、米国への対外投資を計画する日本企業への影響も念頭に、水面下で早く動くことが求められている。