会社設立から8年、次なるステージを目指し、彼らが新天地に選んだ場所とは。
医療プラットフォーム「ファストドクター」を運営するファストドクターは、2016年に事業をスタート。患者向けの医療相談、救急往診、オンライン診療、訪問看護をはじめ、医療機関や自治体に向けた医療支援などを行う。
23年にはForbes JAPANの名物企画「日本の起業家ランキング」で1位を受賞し、日本の医療インフラに革新を起こす存在として注目を集めている。
副次的効果の重要性を実感
23年11月に恵比寿ガーデンプレイスタワーへとオフィスを移したファストドクター。代表取締役 水野敬志(以下、水野)はその理由について語る。「社員が増えるたびにフロアを分けたりサテライトオフィスを設置したりしてきましたが、コミュニケーションが分断してしまうことがあった。変化の多いスタートアップでは経営側も含め社員同士の密なコミュニケーションが重要です。そこで従業員がワンフロアに集結できる環境を探し、この場所に決めました」(水野)
同社は救急医療のプラットフォームとして成長してきた。コロナ禍では救急往診やオンライン診療を支援し、各地の自治体とも連携。「生活者の不安と、医療者の負担をなくす」というミッションを体現した。
移転は、企業として次のフェーズに移る時期でもあったと水野は言う。
「22年に新たなビジョン『1億人のかかりつけ機能を担う』を掲げ、医療インフラを支える体制構築を強化すべく動き出しました。そこで必要となるのが時間です。特に経営層はビジョン実現のために思考する時間が欠かせない。恵比寿ガーデンプレイスは一歩外に出ると空が広がり、ベンチに座ってリフレッシュできる。立地や広さだけでなく、施設そのものに価値があると実感しています」(水野)
「はたらく、あそぶ、ひらめく。」ひらめきは余白から生まれる
オフィスや商業施設などを擁する恵比寿ガーデンプレイスは、開業30周年を機にブランドコンセプトを「はたらく、あそぶ、ひらめく。」に刷新。同施設を運営するサッポロ不動産開発 取締役専務執行役員の福原真弓(以下、福原)は、新コンセプトについて 次のように話す。
「昔はオンとオフがはっきりと分かれていましたが、現在はシームレスにつながっています。恵比寿ガーデンプレイスはオフィスを出ると美術館やブルワリーなどがあり、青空や自然を感じることができる。あらためてこの場がもつ効果に注目し、ワーカーや訪れる方々に実感していただきたい」(福原)
入居から1年未満のファストドクターは、すでに場がもつ価値を実感している。
「社員に移転先が恵比寿ガーデンプレイスになると伝えたとき、歓声が上がったのを覚えています。入居後は32階からの眺望にみんなが『ここが本当に自分たちのオフィスなのか』と感動していました。我々のサービスは24時間365日体制。これまで業務に追われる日々を送ってきましたが、今はリラックスできる時間も増え、社員のモチベーションは格段に上がりました」(水野)
同社は入居を機にリモートで対応していたコールセンターを社内に設置。約100人が勤務できる環境をつくった。
「我々にとってコールセンターは患者さまとの重要なタッチポイント。社内にセンターを設置することでサービス向上を強化し、すべてのスタッフと共に成長していきたい」(水野)
サッポロ不動産開発は、恵比寿ガーデンプレイス開業30周年を記念したイベントを実施。テナント企業にクリエイティブな発想を促すユニークな取り組みも行っている。
「入居企業の方限定の交流会『Workers’Networking Evening』を春夏に3回開催。仕事終わりにお酒や軽食をとりながら交流の輪を広げる機会となり、思いがけない出会いがあったなどのお声をいただきました。11月29日まで開催中の『ひらめきラボ』では芝生広場を会議スペースにし、38階のスカイラウンジをディスカッションスペースに。皆さまにひらめきが生まれる企画を提供しています」(福原)
「ひらめきといえば、この場所には余白があると感じています。物理的な面ではオフィス内にこれまでなかった休憩スペースを設けることができました。そして屋外には緑やカフェなど気分を切り替えられる場所がある。また日常的に若い方が多く訪れていて、場としてのエネルギーも感じています」(水野)
「それはとてもうれしいですね。新たなアイディアやひらめきは空間的・時間的な余白から生まれると考えています。我々のコンセプトにある『遊ぶ』は『空間に遊びがある』という解釈もできる。それは余裕や余白という意味にもつながっています」(福原)
水野は以前から実施していた関係者を招いたイベントの開催頻度を、移転後に増やすことができた点にもメリットを感じている。
「これまでのオフィスではキャパシティがなく、別会場で実施していました。開催するたびに会場が異なることで運営メンバーの負担も大きく、費用もかさんでいた。現在は100人規模のセミナーやオフィスでの懇親会、あるいは高層階にあるレストランでの会食が必要な場合も、すべてタワー内で完結できます。参加者の皆さまにはアクセスしやすい場を提供するだけでなく、コールセンターをはじめとする我々の業務風景も見ていただける。本質的な交流がもてることで関係者の皆さまとの信頼関係がより深まったと感じています」(水野)
国内外のスタートアップ拠点に
サッポロ不動産開発は近隣エリアにもスタートアップ向けオフィスブラン「Sreedシリーズ」を展開している。福原は「今後も若い起業家の方々をサポートしていきたい」と話す。「国家プロジェクト『グローバル・スタートアップ・キャンパス構想』の拠点として恵比寿周辺地域が選ばれました。世界中から研究者や投資家が集まりスタートアップ創出を促進するとともに、国内外のスタートアップ拠点と連携し国際的なネットワークのハブになることが計画されています。こうした流れを受け、恵比寿の街が大きな転換点を迎えようとしている今、私たちはどのような価値を生むことができるのか。プロジェクトを発足し模索していきたい」(福原)
一方、ファストドクターは30年までに「1億人のかかりつけ機能を担う」ため、地域医療のインフラ強化に向けた新たな挑戦を続けている。
「現在の日本ではかかりつけ医を担う開業医の大半が個人開業で、平均年齢は60.4歳。24年4月からの医師の働き方改革により地域医療の人材確保は一層難化していくと予想され、持続可能な医療の実現は急務です。新天地として選んだこの街の成長とともに、我々も変革を起こせるよう尽力していきたい」(水野)
恵比寿ガーデンプレイスとサッポロビールは、「恵比寿のまちを、ビールがつなぐ出会いと創造性の街へ」というスローガンのもと連携し、恵比寿ガーデンプレイスで働く人々を中心とした参加者とオリジナルビールをつくるプロジェクトを実施。開業日となる10月8日に完成したビールで祝うとともに、これからの恵比寿の街の魅力を考えるイベントを開催した。
サッポロ不動産開発