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2024.10.25 16:00

「本当にしたいこと」は何か——一次産業の担い手たちのお悩みピッチin宮崎

2024年8月、農林水産業サミット「ONE SUMMIT 2024 in 宮崎」が開催された。当日は行政機関からスタートアップ、メディアや農林水産業従事者といった多種多様な人々が全国から集結。第一次産業ビジネスの共創コミニュティイベントとして、盛況を博した。

「混ぜる」をコンセプトとした本イベントでは、Forbes JAPAN編集長の藤吉雅春、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル(以下、Amex)日本代表/社長の須藤靖洋らが登壇したキーノート(記事リンク)をはじめ、一次産業を盛り上げるヒントを得るためのさまざまなトークセッション、来場者参加型の「お悩みピッチ」が実施された。


「お悩みピッチ」とは、スタートアップ企業から個人事業主など、「あらゆるビジネスオーナーたちが助け合い、応援し合える場所をつくりたい」という思いからForbes JAPANとAmexが共同で立ち上げたプロジェクトだ。日々の悩みを持つ経営者が"お悩み人"として悩みや困り事を発表し、その場に集まった規模や業界も異なるさまざまな経営者が"お助け隊"として自身の経験や体験談の共有や助言を行う、成長するための対話の「場」である。

4年目を迎えた本プロジェクトは、これまで数多くのビジネスオーナーの背中を押してきたが、「ONE SUMMIT 2024 in 宮崎」では農林水産業従事者のお悩みにフィーチャーする形となった。

こだわるポイントをどこに集中させるのか

ONE SUMMIT会場で行われた「お悩みピッチ」でテーマのひとつとなったのは「儲かる農業」。"お悩み人"は宮崎で高品質なブランドトマト「美トマト」を生産し、加工し、販売する美トマト代表の久須美剣だ。

「生のトマトといった青果販売は、生産量に比例して売上が決まる。そのため、売上を増やすには作付面積を増やすので、必然的に投資せねばならず、二の足を踏んでいる。良い作物はつくれているが、売上をどう伸ばしていけばいいのか」(久須美)

お悩み人はトマト生産者である、美トマト代表の久須美剣。いちごやみかんなどの果物生産者に加え、弁護士や農業スタートアップなど、さまざまな業種のお助け隊が集結した

お悩み人はトマト生産者である、美トマト代表の久須美剣。いちごやみかんなどの果物生産者に加え、弁護士や農業スタートアップなど、さまざまな業種のお助け隊が集結した

久須美は現在、美トマトを使ったドライトマトやコンポート、白ワインジュレといった加工品も手がけるが、品質へのこだわりから単価も高く、売上の成長スピードが遅いため、取引先のレストランからの要望などで加工品を始めたものの、今後の方向性に迷っているという。

「良い作物はつくれているが、売上をどう伸ばしていけばいいのか」という課題に対して、ピッチに集った10人弱の参加者からは自分たちの経験をもとに、様々な意見がでてきた。ひとつ目のアイデアは、一部の専用スペースを設けて、期間限定で消費者にトマト狩りをしてもらう観光農園の設置。トマト狩りで実物を食することでファンになってもらうと同時に、浸透度が低いトマトの加工品を試食して認知してもらう良い機会になると提案する。

登壇者としてサミットに参加していたノウタスの髙橋明久。登壇者も参加者もフラットに“混ざり”情報交換ができる場、というのもONE SUMMITの魅力だ

登壇者としてサミットに参加していたノウタスの髙橋明久。登壇者も参加者もフラットに“混ざり”情報交換ができる場、というのもONE SUMMITの魅力だ

例えば、現役農家やさまざまな分野のスペシャリストが集まって農業に関するコンテンツや体験を提供しているノウタスではオンラインぶどう狩りを実施。各自で収穫を楽しんでもらう現地での体験とは違い、オンラインで行う場合は消費者との直接話が必ず生まれるため、和やかな雰囲気になり、特別感が出ると、代表の髙橋明久は話す。画面越しにどんなぶどうを選びたいのかを聞き、どのように見分けているのかを説明する。そうした会話を通して運営面を改善するヒントも得られることも利点として挙げた。新たな果物狩りのカタチにほかのピッチ参加者からも感嘆の声が上がっていた。

久須美もまたそのアイデアに関心を寄せつつも、自身の「本音」を言えば、売りたいのはこれまで試行錯誤を重ねてきた加工品なのだという。そこで、力を入れているという加工品の試食も行われた。

すると、久須美と以前から親交があるというみかんの生産者、ネイバーフッドの田中伸佳は、生産から加工、販売やブランディング、はたまた経営など、自らの手でやろうとする領域が多い現状、良い作物がつくれているのに加工しているという矛盾を指摘。三代続くみかん農家として、自分の代で青果輸出と加工品1種に注力した結果、加工品の販売ランキングが大手ECサイトでデイリー2位にまで成長したという自身の経験に触れつつ、「経営者として注力する部分をひとつに絞るべき。矛盾には自分でも気づいているのでは?」と助言を投げかけた。こうした話を聞き、もともと"ものづくり"として高品質な農作物生産にこだわっていた久須美も、自身がより経営者としての目線を持つ重要性を噛みしめていた。

課題の本質はどこにあるのか

宮崎県を拠点に、放置竹林を地域資源として活用する一環で「延岡メンマ」を展開するLOCAL BAMBOOの江原太郎は"お悩み人"として選んだテーマは、「農業経営」ならではともいえる、季節で大きな差が出る必要なリソースのマネジメントについて。放置竹林の伐採や買い取りで得た竹をメンマにして販売しているが、「1年でタケノコが生えるのは4〜5月で、伐採のための人件費やコストがこの2カ月に集中してしまう。繁忙期の人件費はどうしたら減少させられるのか?」という悩みを話す。
LOCAL BAMBOOの江原太郎。放置竹林の課題解決に対する熱い思いをピッチする

LOCAL BAMBOOの江原太郎。放置竹林の課題解決に対する熱い思いをピッチする

コンサルタントや農業に関連したベンチャー企業関係者といった面々が集まった同回では、「タケノコ狩り自体に魅力があるのでは?」との声が上がり、大学生や修学旅行生を対象とした研修やレクリエーションとして、季節労働者確保の方法としてタケノコ狩りをレジャー的に事業に組み込む方向性が模索された。「体験を売る」として、自身が運営するパイナップル農園で収穫体験を導入した経験があるオークツ代表・大江貴志は、購入者が収穫を自ら行ってくれることで人件費を抑えることができるため、その利益率の良さといったメリットを挙げた。一方で、安全面や参加者のモチベーションの違いなども指摘され、参加者一同でレジャー保険やモチベーション設計の重要性が議論される場面もあった。

「延岡メンマ」は現在、タケノコ伐採の際には農福連携を利用して人材の確保などに務めているが、簡単には集まらない実情も吐露する。伐採体験については同じく放置竹林の課題を抱える東京・町田ですでに事象実験的に行われて好評を博す一方、宮崎で実施した際には参加者やメディアは集まらなかったという。特に放置竹林は通常の竹林よりも危険度もかなり高くなるので伐採体験での実現は難しそうだが、その他の作業においては「可能性はあるかもしれない」と前向きに意見を取り入れる。

人件費を削減したいのであれば、まずは「資金の確保」という観点で考えるべきでは?という冷静な指摘がAGRISTの共同代表・秦裕貴から入ると、課題の本質が見えてきた。
「LOCAL BAMBOOが抱える想いとして、農業承継者減少に苦慮する状況を踏まえて、放置竹林といった山や森がお金になることを実証することで雇用を創出し、承継問題を解決できるような仕組みをつくっていきたいんです。そのために持続可能性を検討しなければならないと感じています」(江原)

雇用創出を目指すのであれば、まずは融資などを通してしっかりとキャッシュフローを改善し、そのうえで、人件費やコストを適正価格で回っていくエコシステムをどう構築できるか——という議論に発展し、一案として、近年では脱炭素の観点からバイオ炭や炭素吸収率が高い竹林が注目を集めていることから、「延岡メンマ」のカーボンクレジット化の可能性が挙げられた。GX関連プロジェクトに携わる参加者からは「実際に手伝えることもありそう」との提案が出るなど、参加者全員が本気で解決に向けて知恵を絞った。

みな自分ごと化しながら、自身の経験やアイデアを共有し、会場では話が尽きなかった

みな自分ごと化しながら、自身の経験やアイデアを共有し、会場では話が尽きなかった

自分自身は何を担えばいいのか

生産、加工、ブランディング、販売とすべてに対してこだわりをもって立ち向かっている久須美、人員・人件費の確保、伐採整備、イベント企画、製品加工、ブランディング、販売と外部を取り込みながら持続可能性と戦う江原。両者に限らず、ビジネスオーナーはみな多くのタスクを抱えている。

「マーケティングやブランディング、PRといった領域は、専門家に任せるやり方もあるのでは? 何を自分の役割にするのか、しっかり決めることが重要なはず——」

お助け隊の面々はみな、プロや仲間を頼り、自身のやるべきことに集中することの重要性を口々に提案していた。わからないことに多くの時間を割いて疲弊する必要も、ひとりで悩み続ける必要もない。やるべきことは、何を自分自身の役割とするのかをしっかりと決めることなのだ。

「コスト・費用感や契約方式の最適解がわからず、導入になかなか踏み切れない」(久須美)というのもまた、同じではないだろうか。わからないのであればまずは、プロや仲間の意見を聞くことから始まる。今回のお悩みピッチのように、思い切って同じ農家仲間にその悩みを打ち明ければ、さまざまな契約方式やスモールスタートでの実施という選択肢もあることや、広告・マーケティング費の割合をどのように決めて損をしないようにしているのか、また「生産物の再現性を高めることで、美トマトのライセンスビジネスとしての可能性も見えてくるのでは」といった、収益性を上げるための新たなアイデアの提案ももらえたりもする。

悩んでいる本人にとっては聞きにくいこと、そもそも何から聞いたら良いのかもわからないようなことでも思い切って口を開いてみれば、お助け隊のように、きっと「何か参考になれば」と、共に真剣に考え、自身の経験や知識を惜しみなく共有してくれるだろう。

「お悩みピッチ」で得られるのは、知識や目の前の課題に対する解決策だけではなく、自分ひとりでは出すことができないアイデアや考え方、気づきや新たな発想、協力、そして仲間だといえるだろう。

***

近年はビジネスにおいて、共創や共助の重要性に改めて注目が集まっている。今回の「お悩みピッチ」でも改めて実感したのは、経営者同士は仲間であるということだ。仲間にとって助け合うことはごく自然なこと。Forbes JAPANとAmexによる「お悩みピッチ」は、今後も規模や業界を超えて、ビジネスオーナー同士が助け合える場として機能していくはずだ。

過去のお悩みピッチはコチラ↓
https://forbesjapan.com/feat/amex2021_onayamipitch/

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Promoted by アメリカン・エキスプレス / text by Michi Sugawara / edit by Miki Chigira / photo by Yuta Nakayama