経営・戦略

2024.10.17 13:30

「つくれば客は来る」バンドン・デューンズ・ゴルフリゾート成功の秘密

リンクスでのプレイでゴルフに目覚める

カイザーは、RPGをグリーティングカード大手に育て上げる間に、ゴルフの面白さに目覚めた(「ゴルフの腕前はお粗末です」と認めている)。デベロッパー業につながる最初のきっかけは1985年に訪れた。アイルランドにある伝説のリンクス、ロイヤル・カウンティダウンとラヒンチ、バリブニオンでプレイする機会を得たのだ。

当時40歳だったカイザーは、ミシガン州ニューバッファローにある60エーカー(約24万平方メートル)の砂地を31万5000ドルで買い取った。一家が所有する湖畔の別荘の近くにコンドミニアムが立ち並ぶのを防ぐためだ。4年後、そこに9ホールのプライベート・コースであるデューンズ・クラブをオープンしたカイザーは、より大きなプロジェクトを手がけたいと思うようになった。というのも、国内のトップ・コースはいずれも、プレイ料金が高すぎたり、プライベートクラブのものであったり、といった背景があったからだ。

2年かけてゴルフリゾート用の土地を探し歩いたカイザーは、オレゴン州の沿岸部で後にバンドン・デューンズ・ゴルフリゾートとなる場所に巡り合った。「ゴルフのことにのめり込んでいるときは、夕食の席での様子を見ただけでわかりました」

息子のクリスはそう言う。

「バンドンへの出張から帰ってくると、興奮で体が震えていたものです」

1991年にまずは1,215エーカー(現在はその倍以上の広さ)の土地を240万ドルで購入したカイザーは、夢のゴルフリゾート建設のため政府の許可を得るのに4年間待たされた。ほとんどのゴルフコースは住宅用の不動産を売るためのアメニティとして建設されているが、カイザーにその考えは一切なかった。バンドン・デューンズには、フェアウェイに沿って立つ豪邸はひとつもないのだ。99年、カイザーは、初年度に1万ラウンドなら上出来と考えてバンドンをオープンしたのだが、ふたを開けてみると2万4000ラウンドを記録していた。

「彼には明確なビジョンがありました」

ダラスに本社を置くゴルフコースのブローカー企業フェアウェイ・アドバイザーズのマネジング・ディレクター、ジェフ・デイビスはそう話す。

「『つくれば客は来る』というやり方で成功したのは彼が最初です」

それからの10年間、金融危機がゴルフ業界に大損害を与えるなか、カイザーはバンドンに新たに3つのコースをつくった。このときの金融市場の混乱は、特に先見的な不動産計画にとってはチャンスとなることが証明された。ゴルフ場ビジネスが一族の手を離れないようにするため、カイザーはバンドン・デューンズに底値の評価が付いた2008年、それを4人の子どもたちに5000万ドル以下で売却したのだ。

子どもたちは、父から受けた融資を購入資金に充て、最終的には利子も含めて返済を済ませている。

コロナ後にゴルフ人口が増えたこともあり、バンドン・デューンズは近年、活況の一途をたどっている。2020年には全米アマチュアゴルフ選手権の開催地となったが、それはアクセスが悪い場所にあることで観客が殺到せず、ソーシャル・ディスタンスを確保できる点で理想的だったからだ。
 
現在のところ、今後の拡張計画はオレゴン州内に限るつもりだとカイザーは言う。一方、息子2人はゴルフ場デベロッパーとして、ウィスコンシン州からコロラド州、テキサス州、フロリダ州にまで進出している。

「私ももう年ですから」

2年前にパーキンソン病と診断されたというカイザーはそう言うが、ひとつだけ例外として目を付けている場所がある。アイルランド西岸にあるインチという半島で、住民が今もケルト語の一種、ゲール語を母語としているような辺ぴな土地だ。

「すでに承認が取れているなら、すぐにでも飛んで行って、世界でもおそらく最高のコースをつくりますよ」(カイザー)


マイク・カイザー◎米国ニューヨーク州生まれ。1971年、ハーバード・ビジネス・スクールへの進学をやめてグリーティングカード事業をおこし、成功。85年、ゴルフの面白さに目覚め、ミシガン州の別荘にプライベートコースを建設。91年にオレゴン州バンドンに土地を購入、99年にバンドン・デューンズ・ゴルフリゾートを開業した。

バンドン・デューンズ・ゴルフリゾート◎1999年、マイク・カイザーが米国オレゴン州沿岸部のバンドンに設立したゴルフリゾート。7つのコースを有し、海沿いで緩やかな砂丘と広いグリーンがあり、立木は少ない、理想とされるゴルフコース、リンクスの特徴を備える。2020年の全米アマチュアゴルフ選手権など、多くのアマチュア選手権が開催されてきた。

文=ジャスティン・バーンバウム 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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