ハワイにいるから、俳優活動ができる
平が指摘した、日本と海外のエンターテインメント業界の違い。よく言われる話だが、かける予算の違いも大きいのではないだろうか。平は頷きつつ、こう語る。「お金の問題と安易に片付けたくないですが、現実問題として物づくりという点でお金があれば余裕が生まれるのは事実。『SHOGUN 将軍』にしても、カナダのバンクーバーに約8カ月滞在しましたが、その間の住居費も食費も全てカバーされました。撮影がない時もです。たまに家族に会いにハワイに帰る渡航費まで出る。
自分の撮影は1週間から2週間に1回くらいのペースで、暇な時間が多いくらい。スタッフ含め労働時間の規定も厳格だし、衣装さんがバケーションに行くと言って、突然休むこともある。それでも各自、プロとして自分の役割をこなし、全体として制作は粛々と進んでいく。
将軍は総予算1億8000万ドル(約270億円)と聞いていますが、そんな巨額の予算を効率的に配分する能力も必要となります。いま日本の映画界でそんな巨額の予算を使い切る制作体制を作れるかと言うと、疑問ですね」
さて、そんな平にとってハワイという場所はどんな存在なのか。いまや、平が出演する作品の撮影地はカナダやオーストラリア、ヨーロッパや日本など世界各地に及ぶ。一方で、オーディションはほとんどがオンラインで行われるそうで、俳優は世界中どこに住んでもいい時代なのだという。
「それでも、ハワイにいるから、俳優活動ができる。僕はそう実感しています。日本に近く治安の面でも安心なハワイだからこそ、奥さんと娘を置いて長期の撮影に参加できています。これがロサンゼルスだったら、こうはいかない気がする。さらに、もし日本にいたら、スケジュールが空いた時に生活のことを考えて別の仕事を入れてしまうかもしれない。そうしたら、長期撮影の映画の話が来ても対応できません。迷わないよう米国に拠点を移した意味は大きかったです」
そして、ハワイという地は、平にとっては特別な場所なのだそうだ。
「撮影で多くの地を巡りましたが、ハワイ以上の場所はなかった。間違いなく、僕に役者としてのパワーをくれる場所はハワイであり、ハワイにいる家族です。素朴な話ですけどね、僕、ハワイの朝陽を眺めるのが大好きなんです。起きたら自宅マンションの庭に出て、朝陽がのぼるのを観ている時間は最高の癒しです。
暑すぎず、もちろん寒くもない。いつもそよ風が吹いて、周囲の人もとにかく優しい。いま、豪州のゴールドコーストで撮影をしていますが、気候や景色は似ている面はあるかもしれません。でもハワイの空気感とはやっぱり違う。こんなに優しく包んでくれる場所は世界中ほかにないですよ」
俳優としてハワイに住んでいると、こんなメリットもあるそうだ。
「撮影の合間の雑談で、ハワイに住んでいると言うと必ず盛り上がります(笑)。撮影って、待機時間がけっこう長い。出演者やスタッフとすぐに盛り上がれる話題があるのはけっこう大事なのです。その点でもハワイというキーワードはかなり使えますね」
ただ、気掛かりもあるという。
「唯一の気掛かりは、まるで遠洋漁業に出ている夫を持ったような生活になっている奥さんと娘。撮影で何カ月も家を空けることが多いいま、1人で娘を育ててくれている奥さんには、感謝しかないです。『SHOGUN 将軍』という作品の成功は、全出演者とスタッフの家族たちの協力の賜物ですよ。それは強く思います」
44年前に「国際女優」という言葉を生み、日本の文化を世界に知らしめる契機となった「将軍 SHŌGUN」。エンタメの力が、日本と世界の接点を変えていったわけだが、今回のリメイク版の「SHOGUN 将軍」も、「真実の日本」を世界に広める契機となった気がする。
これまでのトンデモ日本ではなく、正しい日本像を海外に確立する担い手となるのが、実力ある日本人俳優の存在。世代によらず、その数がもっと増えてほしいというのが、平の想いだ。そんな日本人俳優たちのなかから、また新たな「将軍」が生まれてくるに違いない。