英語で演技する日本人俳優という立場
その平が今回とくに「日本人俳優の海外での活躍」に言及するのには理由がある。「僕自身、海外に出るのは大きな決断でした。けれど、それ以上に日本人俳優が日本に固執していては未来がないと感じていたのも事実。演技の勉強は日本で積み、日本の芸能界には恩義も感じていますが、約20年の日本での俳優生活で、出演料はほとんど上がりませんでした(苦笑)。
もちろん僕の実力不足もあるでしょうが、海外のエンターテインメント業界の常識とはあまりにかけ離れていた。一種独特な日本の芸能界で汲々としているならば、日本の役者はもっと海外に出るべきだと常々思っています」
平は若手の俳優を集めて、英語での演技を勉強し合うワークショップも続けている。自身の演技のブラッシュアップという意味もあるが、「日本人俳優」の地位向上をはかるライフワークでもある。
「結局、英語で勝負できる俳優が少なすぎるのです。自分の場合、きっかけはサッカーでしたが、米国に留学したことで英語が身についた。そのおかげで海外作品に出演できている面は、当然ながらあります。監督やプロデューサーとのコミュニケーションも必要ですからね。
米国に限らず、海外のプロデューサーや監督が自分の作品に日本人俳優を起用しようと考えた時、語学力も含めて候補として名前が挙がる日本人俳優はまだまだ少ない。最近は日本で撮影する海外作品も増えているし、日本の要素を取り入れる作品も目立ちます。そのソフトとなる日本人俳優が、もっと頑張らないといけません」
英国BBCとNetflixの共同制作ドラマ「Giri / Haji」で海外作品デビューを果たした平。「退路を断つため」(本人談)日本の所属事務所を辞め、海外のエージェントと契約。居住地も米国の1州であるハワイに移した。
「ところが移住した途端にコロナ禍に。一切の仕事がなくなり、収入はゼロ。家族を連れてきておいて、さすがにこれはヤバいぞと冷や汗の日々でした。久々にいただけた仕事が、Huluがローマで撮影した『THE SWARM(ザ・スウォーム)』という作品。衣装を着てメイクし、撮影現場に立った時の嬉しさと言ったら。涙が出そうでしたよ。コロナ禍で僕は演じることの喜びを改めて実感できました。そのロケ中に『SHOGUN 将軍』の出演が決まったのです」
「SHOGUN 将軍」の撮影は、2021年からバンクーバーで始まった。
「日本語で演技する『SHOGUN 将軍』なのに、何百人もいるスタッフはほとんど日本語がわかりません。セリフの切れ目で場面を切り替えるのに撮影スタッフがとても苦労していました。一方で俳優は、セリフ回しでスタッフにアピールすることができない。そこで、気付きました。僕はこれまで誰に向かって演技してきたのかと。制作陣に演技を見せるのではない、とにかく役になりきって相手役に向けて演技する。そんな基本に立ち戻れました」
平は、今年の7月に齢50歳を数えた。人生の節目とも言えるが、どうも平にとっては違う感慨があるようだ。
「不思議なもので、米国で50歳を迎えてようやく、役者としてのキャリアを積んでいる実感があります。徐々に出演作品を積み上げ、知名度や地位が上がっていく。日本での20年間の俳優生活で味わえなかった感覚です。出演料の交渉にも慣れてきました。海外では提示された出演料を弁護士と共に交渉して何倍にも吊り上げるのが常識。その際にエミー賞受賞などのキーワードは交渉の力になります。
先日の全米映画俳優組合のストライキでは、ストリーミングサービスで再生される作品での二次使用料の支払いなども整備されました。興行収入を競う映画の世界からサブスク配信系へと、俳優を取り巻く環境も過渡期にある。そんな中で我々俳優がどう立ち振る舞うか、それは今後の課題です」