石上の父・石上誠は、画家であり生粋のアーティスト。翻せば「商売」には疎く、高校生だった石上が初めてアートの販売に挑戦したのも、家計の苦しさを考慮して自身の学費を捻出するためだったという。海外で個展を開いて父の作品の価値を高めようと、大学時代に何百ものギャラリーを訪ね歩いた。幼年期からアーティストの経済的困窮を誰よりも間近で見て育った経験が、アートで起業する道を開いた。
その後、商業や文化施設などの空間づくりを得意とする丹青社の事業開発センターにも所属し、19年にアートと工芸作品のプラットフォーム「B-OWND」をリリース。プロデューサーとして指揮をとり、真贋の証明書や流通経路などの情報を管理することで作品の信頼性を損なわずに直接売買できるサービスを展開している。
「アート作品は『誰が買った・評価した』という来歴情報でも付加価値がつくので、それらを漏らさず記録しておくために19年のリリース時からブロックチェーンの技術を取り入れています」
国内の工芸品市場は1983年をピークに現在まで縮小傾向が続いているが、石上が携わる百貨店の催事場では工芸品のジャンルで週あたり3000万円以上を売り上げ、過去最高売上を次々と更新。茶道、寿司、漫画など、さまざまな日本文化の海外人気が高まる昨今、工芸品にもその追い風を感じている。
石上は、「作品が高額で取引されれば、アーティストの経済基盤が確立され、若い人の憧れとなりうる“格好よくて儲かる=クールアンドマネー”な存在を輩出できる」とする一方で、「日本の工芸品は、個々の作品のみで消費されてしまう西洋式の『点』の評価方法を踏襲するのではなく、さまざまな文化的要素を統合できる様式を含んだ『面』で評価される土壌をつくり、もっと文化的価値を訴求していくべき」とも指摘する。
「目標は、工芸品を取り巻く環境と評価基準を整え『工芸=アート』のムーブメントを生むことで工芸ひいては日本文化全体の価値を底上げすること」
文化とビジネスの両輪でアーティストをバックアップし、日本の「工芸」をより多くの線で世界とつないでいく。