特に深刻だったのが、優秀な人材の獲得である。長時間労働や過酷な現場作業といった製造業が持つネガティブなイメージが強く、若い世代にとって魅力的な職場とは言えなかったのである。
母が代表を務める同社で取締役事業本部長、そしてアトツギとして2010年に着任した本丸勝也さんは、こうした状況を打開するため、人を中心に据えた人的資本経営へと大胆な改革を断行した。本丸さんがこれまで歩んできた、大手外資系IT企業でのエンジニア経験、起業経験、大学での教員経験など、多彩な経歴と経験をもとに、単なるコスト削減ではなく、社員のモチベーション向上とイノベーション創出を軸とした改革を推進したのである。
本記事では「BE THE LOVED COMPANY REPORT 2.0(経済産業省近畿経済産業局)」にて紹介された、同社の「まじめにおもしろいモノ・コトづくり」を目指す同社の人づくり・組織づくりにおける創意工夫が、同社の成長にどのように寄与してきたか、ロジックモデルを紐解きながら考えてみたい。
1. 社員のエンゲージメントを高める組織改革
本丸さんが進める改革の本質は「何よりも働く社員が自律的に動くことで、モチベーションを高く保ちながら働くことができる組織への変革」であった。この目的の達成のため、特にソフト面で数々の組織改革を実行した。同時並行的に進んだ数々の改革のうち、3点ご紹介する。1点目は、会社(経営層)と社員との「情報の非対称性」の解消を目的として、経営状況や役員の報酬を完全公開する「経営の見える化」である。社員一人一人が会社の経営状況を把握し自分の仕事が会社の成長にどう貢献しているのか、その実感を育むためである。また、その実感をより促すためのアイデアの一つとして、単月の業績に応じて社員向けのお弁当のおかずが変わる「業績連動型仕出し弁当」という工夫も実践している。社員が自ら会社の数値を拾いに行かずとも会社の経営状態を認識することができるという点も特筆すべき点であろう。
2点目は、社員同士の意思疎通の活発化を狙い、web会議導入やオープンチャットによるコミュニケーションの奨励を2010年代前半という早い時期から取り組んでいる。従来の縦型の硬直的な意思疎通しかできない組織ではなく、フラットな組織を目指すことで、社員一人ひとりの主体性を引き出すことにも繋がっている。
3点目は、人事評価・昇進体系の大幅な見直しである。年功序列を見直し若手抜擢も可能な昇進体系や、業績連動型の賞与制度を導入し、社員のモチベーション向上を図るとともに、ミドルマネージャーが所属する部署だけでなく、組織の全体最適を考えてもらうことにつながる評価制度改革なども実行し、社員のやりがいの可視化・所得向上の実感を生み出している。