コロナ禍が過ぎ、オフラインの経済は完全に復活したが、サービス業においては深刻な人手不足が続いている。若手人口の減少、インバウンド客の増加、人件費の上昇、都市部への人口集中など、今の日本は慢性的に人手が不足しがちな構造になっていると言えるだろう。さらには、Uber Eatsのようなデリバリーサービスなどの新業態も次々と登場しており、人材の奪い合いは進んでいるように思われる。
そんななか、こうした店側の悩みを解消する一助となっているのが、長期雇用契約を結ばずに隙間時間を有効活用する働き方「スキマバイト」の存在だ。この7月に東京証券取引所グロース市場への新規上場も話題となったTimee(タイミー)も、スキマバイトで働きたい人と企業求人のマッチングサービスを提供しており、最短1時間からの案件も掲載されているようだ。
私が定期的に通う都内のすし屋の大将も、こうしたサービスに「助けられている」と言っていた。その店は通常、大将とスタッフの2人で切り盛りしているのだが、スタッフがどうしても出勤できない日はスキマバイトアプリを使い、働き手を確保しているという。飲食店でのスキマバイトに慣れている人材に来てもらうことで、とてもスムーズにすしを握ることに集中できて満足度も高く、定期的に利用しているという。
すし屋の例は、おそらくスキマバイトサービスの活用として王道かもしれないが、ある岐阜の旅館の話は、地方の課題解決と新しい採用機会の可能性を感じさせるものだった。
地方出身の若い人たちは、大学進学などをきっかけに地元から離れ、都心部や県内中心部に移住し、そのまま就職してしまうケースが多い。そのため、地元には若手人材が戻って来ず、その岐阜の旅館でも採用には非常に苦労しているという話だった。
どこに隙間時間が生まれるかというと、彼らが夏休みや正月休みなどの長期休暇に帰省したタイミングだ。実家には帰ってきたものの、ずっと家族や友人と行動を共にし続けているわけではないので、案外暇な時間があるという。そういった帰省タイミングにおける隙間時間でのお小遣い稼ぎでとして、スキマバイトのニーズが生まれているようなのだ。
「擬似インターン」という視点
スキマバイトはあくまで一時的な働き手なので、受け入れコストのほうが高くなると嫌厭する企業もあるようだが、前出のその旅館は前向きにとらえ、有望な若手人材との接点かつ擬似インターン的に活用できることに気づいたという。経営者自らも積極的にコミュニケーションをとるようにし、有望な人材に対しては卒業後に来ないかと熱を入れて自社の話をしているそうだ。地方企業は、毎年潤沢に新卒を採用できるわけではない。数年に1人でも、将来の幹部候補を採用できれば会社の未来が大きく変わるという企業も多いはずだ。スキマバイトという手法が、こうした企業にとっても若手にとっても意外なマッチング接点になる可能性があり、地方採用における新しいかたちになるかもしれないと感じた。これは旅館業だけに限らず、ほかの業種でも同じ活用の可能性があるだろう。
良い仕事と巡り会えるのであれば、地元に戻って仕事をしたいという若者は多いと聞く。そういう人たちと地元の素敵な志をもった企業が出会うきっかけが増えるといい。地方企業の採用課題はまだまだ多いかもしれないが、知恵を出し合って、日本中で適材適所で若い人たちが輝ける働き方の選択肢がどんどん広がっていけば良いと思う。
なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。